(ブルームバーグ):中国のスマートフォン大手、小米(シャオミ)の創業者で会長の雷軍氏は、同社が電気自動車(EV)市場に参入し、米アップルが断念した自動車開発で成功を収めた喜びを隠しきれなかった。
北京で6月下旬に開催された小米の第2弾EVとなるスポーツタイプ多目的車(SUV)「YU7」の発表イベントで、雷氏(55)は「アップルが自動車開発を中止して以来、アップルユーザーに特別な配慮をしている」と述べ、「iPhone」利用者でも小米の車両とシームレスに同期できると強調した。
10年という歳月と100億ドル(約1兆4600億円)を投じ自動運転車の開発を目指したアップルだが、その計画の中止を昨年余儀なくされた。雷氏のこうした発言は、アップルに対するあからさまな皮肉だ。
小米はYU7発表から1時間以内に28万9000件以上の受注があったと発表。2024年3月に投入された同社初のEVセダン「SU7」を上回る反響となった。
アップルが失敗した自動車開発で成果を挙げたことで、雷氏の評価は高まり、小米は中国最大級の時価総額を誇る企業となった。テクノロジー業界と自動車業界の双方に大きな衝撃を与えている。
壮大な構想だった自動車プロジェクトでアップルが頓挫したことは、小米の現実的なアプローチの有効性をあらためて浮き彫りにした。同社はテスラやポルシェ・オートモービル・ホールディングの実績あるデザインを参考にしつつ、Z世代の熱狂的な支持を集めた「手頃な価格」というブランド精神を貫いた。
小米がEVを販売する中国が、世界で最も豊かなEVエコシステム(生態系)を築いている国であるという点はさらに重要だ。政府の補助金や整備された充電インフラ、既存のサプライチェーンといった環境要因がアップルにはなかった追い風となった。
小米はこの記事に関してコメントを控えた。
手探り
上海のコンサルティング会社オートモーティブ・フォーサイトの張豫マネジングディレクターは、雷氏と小米の「カリスマ性とブランド認知度、エコシステムは過小評価できない」と述べ、「家の中を小米の製品で埋め尽くしている若い消費者に大きな影響力を持っている。いざEVを買おうとなったとき、自然と小米を思い浮かべる」と指摘した。
ただし、自動車の製造はスマホや炊飯器を作るのとは次元が異なる、はるかに複雑で資本集約的な事業だ。安全規制への対応やグローバルな物流、大規模生産の体制構築に加え、豊富な車種を持つ老舗自動車メーカーとの競争にも直面する。
国際展開に際しては、複雑な地政学的リスクの克服も求められる。実際に初めて自動車を製造するテクノロジー企業の1社となった小米にとって、自動車生産はいまだに手探りの領域だ。
小米は、バッテリーや半導体、エアサスペンション、センサーなどEVのサプライチェーン全体に投資。雷氏が共同創業者となっている投資会社の順為資本や小米主導のファンドを通じ、小米は21-24年に16億ドル余りを100社以上のサプライヤーに投入した。中国の調査会社、張通社とブルームバーグの集計が示している。
サポーター
初のEVが好調な滑り出しを見せたにもかかわらず、1台の成功だけでは自動車メーカーとしての成功とは言えないという声も小さくない。雷氏の攻勢的な手法も、中国の自動車業界では反発を招いている。
上海汽車集団(SAICモーター)の乗用車部門担当バイスプレジデント、兪経民氏は小米の手法を「恥知らず」と批判し、小米のSU7がポルシェに似ていると述べたと報じられた。ネット上ではSU7に「ポルシェ米(Porsche Mi)」というあだ名が付けられた。上海汽車は兪氏の発言に関する質問に回答しなかった。

小米のデザインチームは元BMWデザイナーが率いているが、SU7の外観は空気力学的効率と走行性能を重視した結果だと主張している。
SU7セダンは、3月下旬の死亡事故でも注目を集めた。事故を起こした車では先進運転支援技術が作動しており、当局はこの技術の宣伝や導入を巡る規制を強化した。
普段は積極的にSNSを活用する雷氏も、事故後は1カ月余り静かにしていた。5月にようやく投稿を再開し、この期間を自身のキャリアで最も困難な時期だったと振り返った。
それでも、小米には根強いファン層がいる。いわゆる「米粉(Mi Fan)」と呼ばれる熱烈なサポーターらが、小米の成長を支えてきた。ユーザーの意見を重視する姿勢を初期から続ける同社の戦略も、ブランドの強固な基盤づくりに寄与している。
SU7は事故後も販売が好調で、ディーラーによると、顧客の約50%が他のブランドと比較せずにSU7を選んでいるという。
投資調査会社サード・ブリッジのシニアアナリスト、ロザリー・チェン氏は、「保守的な傾向の強い消費者の間でもSU7は安全性と品質の高さから信頼を得ており、実際に多くの高年齢層が子どものためにこのモデルを購入している」と述べた。
小米は25年のEV販売目標を30万台から35万台に引き上げた。SU7の価格は21万5900元(約439万円)、YU7は25万3500元で、テスラの「モデル3」や「モデルY」に対し競争力のある価格設定だ。同社は25年後半のEV部門黒字化を見込んでいると雷氏は6月の投資家会合で述べた。
ただし、小米の生産規模はまだ限定的だ。中国のEV最大手、比亜迪(BYD)は昨年、EVとハイブリッド車を合わせて約430万台を販売し、その多くが海外市場で売られた。テスラは世界全体で約178万台を販売。世界最大の自動車メーカーであるトヨタ自動車は約1080万台を売り、約70車種のラインアップを持つ。
後発組
オートモーティブ・フォーサイトの張氏によれば、雷氏は今のところ、大量販売が見込まれる2万ドル以下の価格帯市場を優先していないようだ。
この価格帯はBYDが支配する領域で、このセグメントの車種が存在しない限り、小米のEVは中・高所得層向けのニッチな商品にとどまり、テスラと同様、消費者層の狭さとモデル数の限界によって販売不振に陥るリスクを抱えることになる。
それでも、雷氏は初期の成功に手応えを感じているようで、今はグローバル展開も視野に入っている。27年からの中国国外でのEV販売を検討すると雷氏は先週述べた。
欧州連合(EU)と米国、トルコはいずれも中国製EVに関税を課している。ただ、小米はミュンヘンに研究開発拠点を設ける意向を示しており、ドイツとスペイン、フランスなど欧州市場での試験販売を適切なタイミングで開始する可能性もあると中国メディアの36Krが4月に報じた。
雷氏はSNSの微博(ウェイボ)に「小米は自動車業界では後発組だ」と6月に投稿。その上で、テクノロジーとイノベーションがけん引する市場で中国のEVカルチャーが世界で影響力を強め、「後発組にも常に好機がある」との認識を示した。
原題:Xiaomi Founder’s Bold EV Bet Is Paying Off Where Apple’s Failed(抜粋)
--取材協力:Vlad Savov、Mark Gurman、Drake Bennett、Jessica Sui.もっと読むにはこちら bloomberg.co.jp
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