(ブルームバーグ):大学入試コンサルタントのドン・マクミラン氏は、過去15年にわたり米国の超名門大学、ハーバード大学の近所にあるオフィスを拠点としていた。
だが、同氏は今月、4800キロ離れた海の向こう側に事業を拡大させた。米国に幻滅し、代わりに英国の大学進学を考える学生に進路指導を行うという、需要が急増している分野を取り込むためだ。
「米国の学生の間で、英国で学ぶことへの関心が高まっている」とマクミラン氏。「以前なら米国人学生の志望校はオックスフォードやケンブリッジ、セント・アンドルーズに限られていたが、今ではより幅広い大学が検討されるようになっている」と続けた。
この変化は、「米国第一」を掲げ、高等教育機関を変容させようとするトランプ大統領の前例にない取り組みで、英国の大学が恩恵を受ける可能性を表している。高い評価を持ち、英語で教育が行われる英国の大学は、米国の大学を選ばない学生にとって自然な選択肢となる。
英国の大学の一般学士課程出願締め切りは1月末で、トランプ氏の最近の政策が影響を及ぼすにはまだ早い。だが、トランプ政権の大学補助金削減、留学生の学生ビザ取り消し、ハーバード大留学生の米国入国阻止など、政権と大学の対立がエスカレートするにつれ、英国の大学への関心は急増した。
大学情報調べで広く利用されているStudyportalsによると、5月までの1年間に英国の大学を検索した外国人学生の数は10%増加した。一方、米国の大学に対する検索はほぼ同じ割合で減少したという。特に米国人学生による英国の大学の検索は、12%上昇した。
国内学生の授業料の引き上げが増加するコストに追い付かず、留学生の数も期待を下回っているため財政がひっ迫する英国の大学にとって、学生流入は歓迎だろう。英国で高等教育機関の規制・監督を行う学生局が先月発表した報告書によると、2024年は国内の40%余りの大学が赤字で、向こう数年で外国人学生からの収入が期待ほど増加しなければ、財政的圧力は続くだろうと警告した。
一方、高等教育の国際連携などに取り組む英国の公的機関、ブリティッシュ・カウンシルは今年初め、トランプ氏のホワイトハウス復帰に加え、カナダやオーストラリアでの留学制限強化もあり、英国を選択する学生が増える可能性があるとの見方を示していた。
ロンドン大学シティ校のベイズ・ビジネス・スクールは、アンドレ・スパイサー学長が既にこうした学生の獲得に乗り出している。同校は最近、新型コロナウイルスのパンデミック(世界的大流行)以降初となる卒業生のネットワーキングイベントをニューヨークのマンハッタンで開催し、米国の教育を受けた教職員を動員して米国人学生にアピールした。

ベイズ・ビジネス・スクールには売り文句がある。米国で通常2年かかるMBA(経営学修士)取得が1年で済み、費用も5万400ポンド(約1000万円)と、米国より安いということだ。「さらに、トランプ時代から逃げることもできる」とスパイサー氏は呼び掛けた。
欧州連合(EU)はトランプ政権の補助金削減を受けて研究者や科学者を呼び込もうと5億ユーロ(約850億円)の計画を打ち出したが、英国のスターマー政権は大学の取り組みを積極的には後押ししていない。
実際、ナイジェル・ファラージ氏の反移民政党リフォームUKの支持伸張で、同党に追い抜かれた与党・労働党は政治的な圧力に直面している。スターマー政権は、留学生の受け入れを抑制しかねない措置を検討している。具体的には、大学が留学生から得る授業料収入に対して6%の税金を課す案や、卒業後に英国に滞在できる期間を現在の2年から1年半に短縮する案が挙がっている。
それでもトランプ政権が講じた措置と比べれば、これらはまだ軽い。
米国のルビオ国務長官は今年初め、反イスラエルデモに参加した外国人学生を国外退去させたのに続き、今月には中国共産党と関係がある、または「重要分野」を専攻する中国人学生のビザを「積極的に」取り消す計画を政府として進めていると主張した。同氏はまた、ビザ申請者のソーシャルメディア上のプロフィル審査を厳格化する決定を政府が下すまで、学生ビザの面接予約受付を停止するよう全世界の大使館に指示した。

原題:Trump’s Anti-Harvard Campaign Fuels Interest in UK Universities(抜粋)
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