米国「報復税」条項が日本企業にもたらす打撃、税負担増や対米投資減、米ドル資産価値毀損の連鎖

第899条項の発動は、「外国企業の税負担の増加」「資本の米国離れ」「米ドル資産の価値毀損と市場の混乱」といった大きな影響が懸念される。

例えば、外国企業の税負担は、第899条項の発動による適用税率の上乗せで増加する。

経済産業省の海外事業活動基本調査によると、日本企業が米国に有する現地法人数は2,147社であり、2023年度の当期純利益の実績は3.7兆円になる。

ここに最大20%の税率が追加されるとすれば、単純計算で0.7兆円の利益が失われる。

同時期の日本企業の全規模・全産業における当期純利益は80.4兆円であり、日本全体では約1%の減益要因となる。

これまでトランプ大統領は、関税による打撃を避けたければ米国内に投資し、米国内で生産することが解決策になるとメッセージを繰り返し発信してきたが、第899条項が発動されれば、米国に現地法人を有する日本企業の税負担は重くなり、米国内で利益を上げにくい状況に置かれることになる。

この税負担分を価格に転嫁すれば米国内での競争力は低下する。

また、利益率の低下は、投資余力の低下につながるため、中長期的な生産性の向上も抑制されることになる。

このような不確実性の下では、企業が積極的に対米投資を決断することは難しい。その結果、米国への資本フローが細っていくことが懸念される。

なお、資本の米国離れは、企業による直接投資だけでなく証券投資にも及ぶ。

第899条項は、個人を含む海外投資家が保有する米国株や社債などから得られる配当や利息5に、最大20%を追加で課税するものである。

これは、将来のフリーキャッシュフローを株主資本コストで割り引いて現在価値に換算した「株価の現在価値」(税引き後)を下げるものであり、米国資産の価値棄損を受けた海外投資家が資金を米国外に逃避させる動きを誘発、金融市場に直接的な混乱を引き起こすことが懸念される。