(ブルームバーグ):環境保護や多様性の実現に向けた取り組みを積極的にアピールしてきた米国企業の間で異変が起きている。トランプ政権による多様性・公平性・包括性(DEI)プログラム排除などが背景にあるとみられている。
ナイキの当時の最高経営責任者(CEO)、ジョン・ドナホー氏が、多様性と公平性の実現に向けた取り組みに関するリポートをアピールする90秒間の動画を公開したのは、わずか1年前のことだった。ドナホー氏は、スポーツが持つ変革の力を信じる姿勢を示すとしていた。
ナイキは少なくとも2001年以降、同様の報告書を毎年発表してきたが今年は見送られる見通しだ。
過去10年余りにわたり、企業は毎年この時期に二酸化炭素(CO2)排出量の削減やDEI向上に向けた取り組みを宣伝してきた。しかし、3年ほど前から共和党の議員や活動家からこうした取り組みの縮小を求める圧力がかかるようになり、一部の企業は、ESG(環境・社会・企業統治)やDEIに関連する文言を削除し始めている。
JPモルガン・チェースや、コンステレーション・ブランズ、アカマイ・テクノロジーズなどの米企業も株主向けのいわゆる「サステナビリティー報告書」の公表を取りやめたり、延期したりしている。こうした報告書は法的義務はないものの、S&P500種株価指数に採用されている企業のほとんどが昨年、公表していた。
背景には反DEIを後押しているトランプ氏の政策があるとみられる。トランプ氏は就任してすぐ連邦政府の多様性推進プログラムを廃止し、性別を男性と女性の二つに限定する大統領令に署名した。ブルームバーグが取材した企業でトランプ氏の政策が報告書公表の計画に影響を及ぼしたと認めた例はなかった。
企業のESGの取り組みを評価する非営利団体ジャスト・キャピタルのマーティン・ウィタカー最高経営責任者(CEO)は、リベラルと保守の活動家がともに企業の失策の証拠を探す中で、報告書の重要性が高まっていると話す。ウィタカー氏によれば、今年はサステナビリティー関連の報告のうち推計約25%の公表が遅れているという。
調査会社ダイバースIQによると、S&P500種構成企業で「サステナビリティー報告書」を発行していない企業の一部は以下の通り。

ナイキやJPモルガン、コンステレーション、アカマイの各社は、サステナビリティー報告書を今年まだ公表していない理由について、異なる説明を行っている。
ナイキは電子メールで、25年の多様性目標に向けた取り組みに変わりはないとした上で、アスリートのために一段と包摂的で持続可能な世界を築く取り組みを別の形式で公表する予定だとしている。
JPモルガンは規制当局への提出書類の中で、ESGおよび気候関連の取り組みについての報告書を年内に発表するとしている。その一方で、「情報開示に対する当行のアプローチを見直していく中で、変化し続ける開示の状況を注視していく」という。同行は24年版の「報告書」を昨年11月に公表した。
コンステレーションの広報担当者は「ステークホルダーからの意見」を受けて、公表時期を調整したと説明し、報告書は来月に公表予定だと述べた。アカマイは、4-6月(第2四半期)末までの発表の遅れの責任の一端はデータセンターの業者にあるとしており、詳細は明らかにしていない。
情報の欠如は短期的であっても企業の透明性確保に打撃だ。多くのステークホルダーにとって、報告書は短期・長期的な投資成果に影響を与えるESGなどへの取り組み状況を把握するためのよりどころとなっている。しかしトランプ政権の政策を受け、アクティビスト投資家も今年はある程度の猶予を許容している。
企業の社会的責任を促進する非営利団体「アズ・ユー・ソウ(As You Sow)」のCEO、アンドルー・ベハー氏は経営者に対して「今はリスクを取るべきではない」と伝えているという。
保守系シンクタンク「ヘリテージ財団」の上席法律研究員ジャンカルロ・カナパロ氏は、トランプ氏が各省庁のトップに対して、違法なDEI活動の疑いがある九つの企業や団体を特定するよう指示したことを企業経営者は認識していると明かした。
カナパロ氏は「もし人種に基づく優遇を行っていたのなら、見つからないようにしたいと思うだろう。また、もし優遇を行っていなかったとしても、その有無を調べるための訴訟に巻き込まれないように望むだろう」と指摘した。
原題:US Companies Delay Impact Reports With DEI, ESG Under Attack (1)(抜粋)
--取材協力:Mathieu Benhamou、Fiona Rutherford.もっと読むにはこちら bloomberg.co.jp
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