米株式トレーダーにとって現時点で恐れる材料はほとんどない。米企業は堅調な決算を相次いで発表しており、景気後退の兆候も今のところ顕著ではない。トランプ大統領の関税政策についても、近いうちに方向性が明らかになるとの見方が広がっている。

では、懸念すべき材料は何だろうか。

S&P500種株価指数は最高値更新の水準まであと2.3%に迫っているものの、6000という心理的な節目で足踏みしている。ブルームバーグのデータによれば、同指数は先週5日まで7営業日連続で上下いずれの方向にも0.6%を超える動きを見せず、昨年12月以来最長の落ち着いた局面となった。

6月18日の連邦公開市場委員会(FOMC)政策決定を前に金融当局者がブラックアウト期間に入る中、11日には重要なインフレ指標の発表が控えている。S&P500種が4月の安値から20%の急伸を演じた後、再び史上最高値に到達するためには何が必要か、資産運用者らはその要因を模索している。

ウェルス・アライアンスの社長兼マネジングディレクター、エリック・ディトン氏は「米国株が再び過去最高値に戻るには不確実性を払拭(ふっしょく)する必要があるが、貿易戦争の混乱が解消されるまでは当面、明確な材料は見つけにくい」と指摘。同社では相場下落に備えたヘッジをポートフォリオに組み入れ始めているという。

5月の米雇用統計で雇用者数の伸び減速が示され、サービス業や製造業の活動も停滞するなど、最近の米経済指標には弱さが目立ち始めている。しかし市場はこれらの兆候を気にかけていないようだ。トランプ氏の関税による最悪の影響は回避されるとの楽観論のもと、来月にかけてのリスクはほとんど織り込まれていない。ナスダック100指数は過去最高値まであと1.9%に迫っている。

ウェルスパイア・アドバイザーズのシニアバイスプレジデント兼アドバイザーのオリバー・パーシュ氏は、「投資家が貿易戦争や経済リスクに対してあまりにも麻痺してきており、警戒すべき兆候が現れてもそれを見過ごしてしまうのではないかと私は懸念している」と話す。

根強いインフレに備えつつあるトレーダーもいる。5月の米消費者物価指数(CPI)は食品とエネルギーを除くコア指数が、前月比0.3%上昇の予想。4月の0.2%上昇から加速する見込みだ。前年同月比では2.9%上昇と、米連邦準備制度理事会(FRB)の目標である2%を超える見通し。ウェルズ・ファーゴのエコノミストはインフレについて、年後半に再び加速するとみている。

最近の経済指標を受けて、FOMCが早ければ9月にも利下げを再開するとの期待が復活している。一方で、インフレ指標のサプライズやボラティリティーの再燃が、リスク資産のポジション巻き戻しを招き、再び売りを引き起こすとの警戒もある。

S&P500種は今年に入り、米国を除くMSCIオール・カントリー・ワールド指数を12ポイント近くアンダーパフォームしており、1993年以来最悪の出足となっている。バンク・オブ・アメリカ(BofA)のストラテジスト、マイケル・ハートネット氏は、世界株にはテクニカル的な「売り」シグナルの点灯が近いと指摘する。投資家がリスク資産へ殺到した結果、ポジションが過度に偏っているという。

ローズ・アドバイザーズのポートフォリオマネジャー、パトリック・フルゼッティ氏は「油断が広がり過ぎると、サプライズが起きるリスクが生じる。従って、私は夏場に向けて慎重な姿勢をとっている」と述べた。割安感があり高配当のヘルスケアや生活必需品株を積極的に買い増しているという。

前出のウェルスパイアのパーシュ氏は「多くの人が『全てはうまくいく』と考えており、こうした脅威に目を向けていないのではないかと懸念している。彼らは警告サインを見過ごしている」と付け加えた。

原題:Traders Scour for ‘Elusive’ Catalyst to Push S&P 500 to Record(抜粋)

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