20歳代の6割がほぼノンアル、飲酒は「コスパの悪い娯楽」?

40~60歳代の女性の飲酒習慣率はやや上昇しているものの、男性と比べると依然として3~4分の1程度にとどまっている。一方で、若者や男性では全体的に飲酒習慣率が低下しており、その結果、アルコールを飲まない「ソバーキュリアス」の存在感は増している。

先の調査で飲酒の頻度をたずねた結果を見ると、2023年では、アルコールを飲めないわけではないものの、「ほとんど飲まない」「やめた」と回答した、いわゆるソバ―キュリアスと見られる層は、若年層ほど多く、20歳代では男女ともに約2割を占める。さらに、「飲まない(飲めない)」と回答した層も含めると、現在の20歳代の約6割が、日常的にアルコールを摂取しない生活を送っていることになる。

2019年と比較すると、2023年では全体的に「ほとんど飲まない」と回答する人の割合は減少している一方で、それ以上に「飲まない(飲めない)」と回答する層が増加している。中でも「飲まない(飲めない)」の回答が増えているのは、20歳代男性(約15%)や、30歳代・50歳代女性(いずれも約1割)である。

また、「毎日」など高頻度で飲酒する人の割合は減少し、週1回未満などの低頻度で飲酒する層が増えている。つまり、飲酒を習慣的に行う人は減り、飲酒頻度は全体として低下傾向にある。

つまり、若者を中心に飲酒を全くしない人が増えているだけでなく、飲酒をする場合でもその頻度は以前より低下している。こうした変化は「飲酒を日常的に行うスタイルから、必要なときにだけ楽しむスタイル」へと、価値観が移行しつつあることを示唆している。

では、なぜ若い世代ほどアルコール離れが進んでいるのだろうか。冒頭でも触れた通り、背景にはリスク回避志向の高まりや娯楽の多様化といった要因があげられる。

景気低迷が続く中で育った世代は、将来への不安や不確実性を強く感じやすく、慎重な消費態度を示す傾向が強いと考える。また、膨大な情報に日常的に接しながら価値観を形成してきた彼らは、コストパフォーマンス(コスパ)やタイムパフォーマンス(タイパ)を重視する傾向も強いと言える。

さらに、インターネットやスマートフォンの普及により、ゲーム、SNS、動画配信サービスなどの手軽で多様な娯楽が身近に存在し、飲酒が以前ほど魅力的な娯楽として捉えられなくなっている。

さらに、デジタルネイティブ世代はSNSを通じて常に他者とつながっているため、リアルに集まって飲むことへの欲求自体が低下している可能性もある。

こうした状況の中で、若者にとって「飲酒はコスパの悪い娯楽」とみなされつつあるのではないか。飲酒によるメリットとしては、楽しい気分になれる、コミュニケーションが円滑になる、美味しさを楽しめる、といった点がある一方で、健康リスクや出費、時間の消費、さらには酔ったことによる失敗のリスクなど、デメリットのほうが上回ると捉える傾向が強くなっている。こうした価値観の変化が、若年層におけるアルコール離れを後押ししていると考えられる。

ウェルビーイング時代の「飲み方の選択」~飲む・飲まない、どちらも自然な選択肢に

本稿では、厚生労働省「国民健康・栄養調査」のデータをもとに、消費者の飲酒行動の変化を分析した。その結果、飲酒習慣率は特に男性や若年層で顕著に低下しており、飲酒頻度においても「飲まない」層の割合が全体的に増加していた。

なかでも20歳代では、約6割が日常的にアルコールをほとんど摂取しない、いわば「ノンアル生活」を送っていることが明らかとなった。

こうした変化の背景には、かねてより指摘されてきた若年層のアルコール離れや健康志向の高まりといった土台がある。そこへ、コロナ禍を契機としたテレワークの普及やオンラインでの交流の一般化、さらに心身の充実を重視する、ウェルビーイングの価値観が浸透したことが、飲酒行動の変化に拍車をかけたと考えられる。

今後は、「必要なときにだけ飲酒を楽しむスタイル」が、世代を問わず広がっていくと見込まれる。実際、アサヒビールでは「スマドリ(スマートドリンキング)」の名のもと、「飲む人も飲まない人も、自身の体質や気分、場面に応じて適切なドリンクを選び、スマートに楽しむ飲み方の多様性」を提唱している。

かつては「飲みにケーション」という言葉が象徴するように、就業後の飲み会が職場の人間関係を築く場とされてきた。しかし現在では、働き手の多様化や働き方改革が進み、健康意識も高まる中で、その役割は変化しつつある。

お酒をこよなく愛する人々にとっては、こうした変化に一抹の寂しさを覚えるかもしれない。とはいえ、アルコールの楽しみ方そのものも多様化し、「飲まない選択」も含めて尊重される時代になってきた。多様な価値観を受け入れ、選択肢を広げていくことは、サステナビリティを重視する現代社会の流れにも合致している。

(※情報提供、記事執筆:ニッセイ基礎研究所 生活研究部 上席研究員
久我尚子)