国内のアルコール販売(消費)数量は1996年をピークに減少傾向が続いており、コロナ禍による落ち込みを経て、直近ではやや回復の兆しが見られる。

消費の内訳では、1990年代半ばまではビールが7割を超えていたが、最近ではリキュール系飲料の伸びも目立ち多様化している。「とりあえずビール!」で始まる飲み会文化は影を潜め、現在ではそれぞれが好みに応じて飲み物を選ぶスタイルが主流になりつつある。

飲酒習慣率は、20年ほど前と比べて男性は全年代、女性は20~30歳代と70歳以上で低下しており、特に男性40~50歳代の低下幅が大きい。

この背景には、景気低迷による会食機会の減少、健康志向の高まりなどがあげられる。一方、働く女性が増えたことなどを背景に女性の40~60歳代の飲酒習慣率はやや上昇している。

飲酒の頻度を見ると、2023年ではアルコールを飲めないわけではないものの、「ほとんど飲まない」「やめた」(ソバーキュリアスと見られる)層は若いほど多く、20歳代の約2割を占める。これに「飲まない(飲めない)」と回答した層も含めると、20歳代の約6割が、日常的にアルコールをほとんど摂取しない「ノンアル生活」を送っている。

若者のアルコール離れの理由にはリスク回避志向の高まりや娯楽の多様化などがあげられる。若者は将来不安や不確実性などから慎重な消費態度を示す傾向が強い。

また、ネットやスマホの普及でゲーム、SNS、動画配信などの手軽で多様な娯楽が身近にある。SNSを通じて常に他者とつながっているため、リアルに集まって飲む欲求も低下する中、若者にとって「飲酒はコスパの悪い娯楽」とみなされつつあるのだろう。

かつては「飲みにケーション」という言葉が象徴するように、就業後の飲み会が職場の人間関係を築く場とされてきた。しかし、働き手の多様化や働き方改革が進み、健康意識も高まる中で、その役割は変化しつつある。

アルコールの楽しみ方そのものが多様化し、「飲まない選択」も含めて尊重される時代になってきた。多様な価値観を受け入れていくことは、サステナビリティを重視する現代社会の流れにも合致している。

広がる「ソバーキュリアス」、ノンアル生活を後押しする動きも?

近年、若者を中心に、アルコールを飲めないわけではないが、あえて飲まない「ソバーキュリアス」が増加している。特に若者がアルコールを控える理由には、娯楽の多様化や相対的な飲酒価値の低下、健康意識の高まり、さらには物価高が進行する中での経済的な理由などが挙げられる。

一方で、最近ではノンアルコールを積極的に選択する動きが年代を問わずに増えている印象がある。

コロナ禍は消費生活に大きな変化をもたらしたが、中でも飲酒行動への影響は際立っていた。コロナの5類移行後、多くの消費行動は平常化した。一方で飲酒に関しては、回復傾向を示しながらも、同時にノンアルコールという選択を後押しするような動きも活発化しているように見える。

現在では飲食店のドリンクメニューにノンアルコール飲料が当たり前のように並び、専用コーナーが設けられているスーパーも多い。

また、飲料メーカーの動きを見ると、2020年からアサヒビールは「スマドリ(スマートドリンキング)」を提唱し、ノンアルコール飲料を売りにしたバーを出店するなどの取り組みを進めている。

さらに、2024年には、「責任ある飲酒」を推進するための新たな組織が設立され、取組みが一層強化されている。この動きは、カクテルなどノンアルコール飲料のラインナップが豊富なサントリーでも同様であり、今年4月には「攻めのノンアルしちゃおっか。」をキャッチコピーに、ノンアルコール飲料に特化した専門部署として「ノンアル部」が新設された。なお、ノンアルコール市場は拡大傾向にあり、特に2020年から2021年にかけてのコロナ禍初期にかけて大きく伸びている。


こうした動きを踏まえ、本稿では厚生労働省「国民健康・栄養調査」などの最新データをもとに、消費者の飲酒行動の変化についてあらためて分析する。

「とりあえずビール!」の文化は衰退、発泡酒やリキュール系飲料の消費量が増加

国税庁「酒のしおり」によると、国内のアルコール販売(消費)数量は1996年をピークに減少傾向が続いており、コロナ禍による落ち込みを経て、直近ではやや回復の兆しが見られる。

消費の内訳に目を向けると、1990年代半ばまではビールが全体の全体の7割超を占め、圧倒的な人気を誇っていた。ところが2000年代初頭は、税率の変更の影響でビールに代わり発泡酒の消費が増加し、最近ではリキュール系飲料の伸びも目立つなど、アルコール消費は多様化している。

かつて定番だった「とりあえずビール!」で始まる飲み会文化は影を潜め、現在ではそれぞれが好みに応じて飲み物を選ぶスタイルが主流になりつつある。

低下する飲酒習慣、男性は全世代で減少、働く女性で増加傾向も?

次に、飲酒習慣(週に3日以上、飲酒日1日当たり1合以上飲酒する)について確認する。1999年と2019年、2022年、2023年を比較すると、男性では全ての年代で、女性では20~30歳代および70歳以上で飲酒習慣率が低下している。中でも従来から飲酒習慣率が高かった男性の40~50歳代での低下幅が大きく、2~3割ほど低下している。

この背景には、以前から指摘しているように、バブル崩壊後の景気低迷によって会食の機会が減少したことや、2008年に導入された40~74歳対象のいわゆるメタボ健診(特定健康診査・特定保健指導)による健康志向の高まりなどがあると考えられる。

ただし、2019年と2023年を比較すると、男性ではやや低下しているものの、1999年からの大幅な減少と比べて変化は限定的である。したがって、飲酒習慣の低下は、コロナ禍による一時的な影響よりも、長期的な社会環境や価値観の変化によるところが大きいといえる。

なお、飲酒習慣率はおおむね2022年に最も低く、2023年にはやや上昇に転じている。これは、コロナの5類以降により消費行動が平常化し、外食機会が回復したことが一因と考えられる。

一方、女性の40~60歳代では、1999年と比べて飲酒習慣率がやや上昇している。その結果、最近ではこの年代の女性の飲酒習慣率が、20歳代の男性を上回るようになっている。この背景には、当該世代では働く女性が増え、男性と同様に会食の機会が多くなったことがあげられる。

また、以前と比べて女性がアルコールを楽しむことに対する社会的な許容度が高まったことも影響しているだろう。加えて、甘口のカクテルや発泡酒など女性向けの商品が充実してきたことや、女性が入りやすい飲食店の増加も要因として挙げられる。