米国際貿易裁判所は28日、トランプ大統領の世界的な関税措置を巡り、その多くの部分について違法だと判断して差し止めを命じた。トランプ氏の経済政策の重要な柱への打撃となる。

この判断について、連邦高裁は29日、効力を一時的に停止する判断を下した。高裁はその間、政府が求める長期的な効力停止の是非を検討する。

国際貿易裁判所は、3人の判事から成るパネルによる全員一致で、トランプ氏が関税措置を正当化するために国際緊急経済権限法(IEEPA)を適用したのは不当だと判断した。貿易問題を巡っては、裁判所は大統領の判断に従う傾向があり、異例の判断となった形だ。

トランプ氏が大統領権限の限界を試すかのような勢いで発令してきた大統領令に対しては、数多くの訴訟が提起されている。今回の判断が最終的に支持されれば、トランプ政権にとって大きな痛手となる。

巨額に上る世界の貿易に影響を及ぼす関税問題の行方は、最終的には連邦最高裁の判断に委ねられる可能性もある。

米国際貿易裁判所

今回の裁判所判断はどの関税に適用されるのか?

今回の裁判所の判断は、60カ国程度の輸入品を対象にトランプ氏が4月2日に公表した広範な関税措置に適用される。この関税はその後、7月初頭まで停止となった。中国、カナダ、メキシコからの輸入品に別途課された関税も対象となる。

最終的に確定すれば、中国からの輸入品への30%の関税、カナダおよびメキシコに対する最大25%の関税、広範な貿易相手国・地域への一律10%の関税が撤廃される見込みだ。

一方で別の法的根拠に基づいて課された鉄鋼・アルミニウム、自動車など分野別の関税には影響は及ばない。これらは通商拡大法232条に基づくもので、商務省の調査により、該当製品の輸入が国家安全保障を脅かすと判断された。貿易相手国・地域の不公正貿易慣行に対処する通商法301条を根拠とする関税にも影響ない。

 

訴訟の内容は?

国際貿易裁判所の判断は、2件の提訴に対応したものだ。

1件目は4月14日、法的支援団体リバティ・ジャスティス・センターが中小企業5社を代表したものだ。ニューヨーク州のワイン販売業者やバーモント州の女性向け自転車アパレルブランド、バージニア州の小型電子機器製造業者などが原告だ。

提訴では、トランプ氏がIEEPAを乱用していると主張。リバティ・ジャスティス・センターは貿易赤字について「緊急でも異常でもなく、特別な脅威でもない」などとした。

もう1件は、民主党が主導する12州の州司法長官が、4月23日に提訴したものだ。トランプ氏の関税は米消費者への大きな税負担となり、議会の権限を侵害していると主張している。

トランプ大統領

国際貿易裁判所の判断は?

3人の判事は、米国憲法が「関税に関する権限を議会に明示的に付与している」ため、IEEPAが大統領に無制限の関税の権限を委譲しているわけではないとした。

世界的な関税措置を打ち出したトランプ氏の大統領令と、報復措置を講じた国々への追加関税を課す大統領令はいずれも、IEEPA下での大統領の権限を逸脱していると認定した。

メキシコ、カナダへの関税を巡る大統領令についても、正当化の根拠とした緊急事態への対処を最終的には目的としていないとして違法とされた。

トランプ氏の関税政策への影響は

国際貿易裁判所の判断が維持された場合も、グローバル貿易の再編を目指すトランプ氏の政策にとって恒久的な打撃になるとは限らない。

トランプ政権は、これまでに不利な判決を下された場合は判事の偏向を主張。政権は、裁判所の命令に完全に従っていないとも批判されてきた。

ホワイトハウスのデサイ大統領報道官は、今回の判断について「国家の緊急事態への適切な対処を判断するのは選挙で選ばれたわけでない判事の仕事ではない」と声明で指摘している。

国際貿易裁判所の判断が控訴手続きを乗り越え支持された場合、トランプ氏の関税措置の大部分が撤回となり、米財政を巡る懸念が一層強まる恐れもある。債券市場の投資家がとりわけ、連邦債務拡大について疑念を抱いている。

米政権は、税制・歳出法案に盛り込まれた減税措置の財源の一部として関税収入増を挙げている。

米輸入業者は4月、過去最高の165億ドル(約2兆3700億円)の関税を支払った。この金額について、トランプ氏の側近は今後数カ月で増加するとの見方を示していた。

 

通商交渉への影響は?

中国や欧州連合(EU)、インド、日本など、関税を巡ってトランプ政権と交渉中の主要貿易相手国・地域は、協定締結に向けた取り組みを継続するか、あるいは今回の判断が維持されるのを期待して交渉を遅らせるか、決断を迫られている。

トランプ氏が英国と合意した貿易枠組みも不透明になった。この協定では、英国からの輸入品全てに対する10%の関税賦課が盛り込まれているが、国際貿易裁判所の判断が維持されれば、関税は無効になる可能性もある。

原題:Where Does Trump’s Trade War Go With Tariffs in Legal Limbo?(抜粋)

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