(ブルームバーグ):石油・石炭関連企業が銀行融資の確保に苦しむ中で、世界でも有数の「グリーン経済圏」の一角にある、あまり知られていない市場に活路を見いだす例が増えている。ノルディック(北欧)債券市場だ。
オーストラリアの資源開発会社ペンブローク・リソーシズのバリー・チューダー最高経営責任者(CEO)はインタビューで、今年に入って「資金調達のギャップ」に直面した際、1200億ユーロ(約19兆6200億円)規模のノルディック社債市場を選んだと明かした。
チューダー氏は、ペンブロークとの取引を望む銀行数が、過去5年間で着実に減少していると述べた。同氏は「一部の銀行は融資を再開しているが、その他は再開せず、今後もしないだろう」と述べた。ノルディック債を選んだ理由については「価格面で魅力的で、投資家の需要が高く、業界への理解が成熟していた」と説明している。
世界でも特に環境意識が高い地域にあるノルディック社債市場は、当初は地元の中小企業が大規模な債券市場で直面する参入障壁を回避しつつ成長することを目的としていた。高利回り社債の発行体にとっては、事務的な制約が比較的少ない。
現在では、投資家の需要と緩やかな発行条件に引かれて、低炭素経済への移行の中で圧力を受けている国際的なエネルギー企業が、この市場に注目している。ペンブロークもそうした企業の一つだ。
同社は今年2月、ノルディック債券市場で5億5000万ドル(約790億円)を調達し、豪クイーンズランド州で進める製鋼用石炭鉱山の拡張資金に充てる予定だ。このプロジェクトは環境リスクの観点から批判を受けている。
法律事務所ホワイト&ケースのプロジェクト開発・財務部門グローバル責任者、ジェイソン・カー氏は、アフリカの小規模石油生産者でも同様の傾向が見られると指摘する。
カー氏は、銀行は「他のプレイヤーに置き換えられている」と指摘し、アフリカの石油生産者もノルディック債券市場に目を向けていると述べた。
BNPパリバ、INGグループ、ソシエテ・ジェネラルなど欧州の銀行は、化石燃料融資に制限を課している。こうした銀行が撤退する中、石油や石炭生産者は、プライベートクレジットや米国の地銀、商品取引会社など、代替的な資金調達先を探している。
矛盾
化石燃料関連の引受業務で、北欧諸国の銀行が存在感を増していることは、同地域の「グリーン」なイメージと矛盾する。スウェーデンやノルウェー、デンマーク、フィンランドは、二酸化炭素を出さない電力の利用や電気自動車の普及により、先進国の中でも特に環境意識の高い国々とされてきた。ただ、こうした評価には、化石燃料の金融支援や輸出に伴う排出までは含まれていない。
スウェーデンのシンクタンク、アントロポセン・フィクスト・インカム・インスティテュートのウルフ・エルランドソン最高経営責任者(CEO)は「一方で企業のグリーン移行を促しながら、同時に債券資本市場業務を通じ、その気候戦略に真っ向から反する行動を取っている金融機関に手数料を支払うのは、本末転倒に思える」と述べた。
ノルディック・ハイイールド債市場の規模は比較的小さく、昨年の発行額は2200億ノルウェークローネ(約3兆1200億円)にとどまるが、DNBカーネギーのデータによれば、2019年以降で113%の成長を遂げている。
同データによると、昨年1月以降、ブラジル、バミューダ諸島、アラブ首長国連邦(UAE)など各国の国際的な石炭・石油生産、石油サービス企業19社が、ノルウェー市場でハイイールド債を発行している。24年は、部門別で石油サービス分野が最も多くの取引をけん引したという。
DNBカーネギーの投資銀行部門国際責任者ピーター・ベンク氏は、同市場の発行を支えている需要のうち、現在では半分以上が国際投資家によるものと見積もっている。チューダー氏とブルームバーグの情報によれば、ペンブロークが2月に発行した債券には、ゴールドマン・サックス・グループをはじめ、欧州やアジアの債権者が参加したという。
ノルディック債の有力引受業者の一つであるパレート・セキュリティーズで、エネルギー債クレジット調査部門を率いるマグナス・ヒェルマン氏は同市場に近年アクセスする複数の発行体について、「北欧地域との関連が全くない」と話した。
原題:A $135 Billion Bond Market Lures Issuers Too Risky for Banks (1)(抜粋)
--取材協力:Akshat Rathi、Charles Daly、Helene Durand、Joe Ryan.もっと読むにはこちら bloomberg.co.jp
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