(ブルームバーグ):米政府は、日本製鉄による米鉄鋼大手USスチール買収を承認する条件として、USスチールの「黄金株」を取得する見通しだ。
黄金株は企業の特定の意思決定に対して政府に事実上の拒否権を与えるもので、事情に詳しい関係者によれば、米当局と両社との間で進められている協議の一環だ。
拒否権の範囲や、日鉄による141億ドル(約2兆400億円)のUSスチール買収に関してトランプ政権が最終的にどう判断したかは依然として不明。関係者2人によると、対米外国投資委員会(CFIUS)およびトランプ大統領に提出された取引案には、1株55ドルでの買収と140億ドルの追加投資が含まれていた。
米政府への黄金株譲渡については、日本経済新聞などが先に報じていた。
黄金株の権限は国家安全保障の取り決めに盛り込まれる見通しで、これは通常、CFIUSによる条件付きの承認を反映する形で策定されることが多いと、一部の関係者が匿名を条件に明らかにした。権限が株式持ち分に相当するのか、それとも単なる介入権限にとどまるかも分かっていない。
黄金株は、特定の状況下で他の株主に優先して議決権を行使できるものだが、政府による上場企業の株式保有が一般的ではない米国では珍しい。しかし、イタリア、ブラジル、英国など他国では民営化企業や戦略的企業における重要な意思決定に対する国家の関与を維持する手段として黄金株が活用されている。
今回の展開は、1年半近くも宙に浮いたままの買収提案に新たな動きをもたらすものとなった。
トランプ大統領は30日、ペンシルベニア州ピッツバーグで集会を開き、USスチールの案件を自身の関税政策および米労働者の勝利としてアピールしたい考え。ただ、全ての当事者の間で依然として詰めの作業が行われているという。
事情に詳しい政府高官1人によると、政権は30日の集会までに合意を大筋で取りまとめたい考えだという。別の高官は詳細は適切な時期に発表されるだろうと述べた。いずれも匿名を条件に語った。
ホワイトハウスのデサイ報道官は詳細な説明を控え、「大統領は30日にペンシルベニア州ピッツバーグを再び訪れ、米国の鉄鋼業と雇用について祝うのを楽しみにしている」とのみコメントした。
ペンシルベニア州選出でトランプ氏とも近い共和党のマコーミック上院議員は27日放映のCNBCとのインタビューで、同州にあるUSスチールのモンバレー製鉄所への24億ドル投資など詳細の一部を確認。この枠組みを実質的に成立済みの合意として位置づけた。一方、ホワイトハウスは現時点でCFIUSを通じた買収承認について公式のコミットメント表明には至っていない。
「支配の枠組みはやや独特なものになるだろう」とマコーミック氏は指摘。「最高経営責任者(CEO)は米国人で、取締役会の過半数も米国人が占め、さらに黄金株が設定される。これは実質的に取締役メンバーの一部について米政府の承認を義務付けるもので、そのため米国は生産レベルの低下などを確実に防ぐことができる」と話した。
トランプ氏がUSスチールは外国資本に所有されるべきではないと公言する中でも、日鉄はUSスチールの経営権を全面的に掌握する形での買収を強く求めてきた。
マコーミック氏は、日鉄が取締役を送り込み、USスチールは「日鉄の企業構造全体の一部になる」と認めた。その上で、日鉄が提案した今回の枠組みについて、「基本的に米国はいいとこ取りできる」と指摘した。
日鉄とUSスチール、米財務省はいずれもコメントを控えた。
林芳正官房長官は28日の記者会見で、個別企業の経営に関する事柄に対しコメントすることは差し控えるとした。その上で、具体的な投資計画は民間の関係者で検討調整が進められていくもので、「政府としては必要に応じ関係者間の意思疎通の促進に努めたい」と述べた。
買収合意に至った場合でも、トランプ氏は、バイデン前政権が国家安全保障上の理由で下した買収差し止め判断を覆す必要がある。投資家の間では、追加の140億ドル投資の配分についても不透明感が残る。
バイデン前政権で財務省の投資安全保障顧問を務めたジム・セクレト氏は「黄金株という言葉は派手に聞こえるが、実際は、生産ラインの海外移転や閉鎖などの決定の承認権限を政府に付与する従来型のCFIUS協定が検討されている可能性が高い」と指摘した。
原題:US Poised to Get Golden Share in US Steel-Nippon Steel Deal (4)、US Poised to Get Golden Share in US Steel-Nippon Steel Deal (2)、US Poised to Receive Golden Share in US Steel-Nippon Tie-Up (1)、US Set to Receive Golden Share as Part of US Steel-Nippon Deal(抜粋)
(黄金株に関する情報を追加して更新します)
--取材協力:照喜納明美.もっと読むにはこちら bloomberg.co.jp
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