(ブルームバーグ):米格付け会社ムーディーズ・レーティングスは、米国の信用格付けを最上位から引き下げた。世界で最も信用力の高い国債発行国の信認に一石を投じる象徴的な動きとなる。
ムーディーズは16日、米国の長期発行体格付けと無担保優先債格付けを最上位の「Aaa(トリプルA相当)」から「Aa1(ダブルAクラス)」に1段階引き下げたと発表した。フィッチ・レーティングスとS&Pグローバル・レーティングに続き、世界一の経済大国がトリプルA格付けを失った。
米国の債務と財政赤字の急増により、国際資本の投資先としての優位が損なわれ、政府の借り入れコストが増大するとの不安が格下げの動きに反映された。
トランプ政権と米議会は、2017年に時限措置として成立した「トランプ減税」の恒久化を含む税制パッケージの協議を進めているが、歳出ペースの抑制は見通せず、格下げは逆風となり得る。グローバルな「関税戦争」の影響で米景気が減速すれば、政府支出の増加に伴い財政赤字がさらに拡大する恐れがある。
ムーディーズは1年余り前、米国の格付け見通しを「ネガティブ」に変更したが、今回の格下げ後の見通しは「ステーブル(安定的)」とした。米連邦財政赤字は国内総生産(GDP)比6%超の年間2兆ドル(約291兆円)近くに膨らみ、総債務残高は経済規模を既に上回っている。
同社は格下げの理由について「歴代の米政権と議会は、巨額の年間財政赤字と金利負担の増加傾向を反転させる措置で合意できなかった」と指摘。「米国が持つ経済・財政の著しい強さは認識しているが、これらの強みだけで財政指標の悪化をもはや完全に埋め合わせることはできない」と認識を示した。
ムーディーズの発表後、米国債相場は下げを拡大し、10年国債利回りは一時4.49%に上昇。16日の時間外取引でS&P500種株価指数に連動する上場投資信託(ETF)の価格は0.6%下落した。

ベッセント米財務長官は今月に入り、連邦財政が持続不能な軌道にあると警戒感を示した。下院歳出小委員会での証言で、「債務の数字は実に恐ろしい」と述べ、危機に陥れば「経済が急停止し、信用が消失する」と発言。「それが起きないよう力を注ぐ決意だ」と語った。
ブランディワイン・グローバル・インベストメント・マネジメントのポートフォリオマネジャー、トレーシー・チェン氏は「今回の格下げは、投資家が米国債利回りの上昇を求める見通しを暗示する」と分析。過去にフィッチとS&Pが最上位から格付けを引き下げた際、米国の資産価格は反発したが、「米国債とドルの安全資産としての性質が幾分不確かになったとも考えられ、市場が異なる反応を示すかどうかまだ分からない」と見解を明らかにした。
一方、トランプ政権1期目の国家経済会議(NEC)で勤務した経験を持ち、現在はSMBC日興セキュリティーズ・アメリカのチーフ米国エコノミストを務めるジョゼフ・ラボーニャ氏は、議会が重要法案に対応する中での今回の格下げについて、タイミングが「非常に奇妙だ」と疑問視する。GDP比100%という債務水準も世界的には「珍しくない」という。
米国は先進工業国で成長率と1人当たりの生産性が最も高く、格下げは納得がいかないと同氏は主張した。

ホワイトハウスはムーディーズによる米国の信用格付け引き下げを政治的決定だと強く非難した。
スティーブン・チャン広報部長は、X(旧ツイッター)への投稿で、ムーディーズ・アナリティクスのエコノミスト、マーク・ザンディ氏を名指しし、政権の政策を長年批判してきた人物だと糾弾した。「彼の『分析』を真に受ける者などいない。何度も誤りが証明されてきた」とチャン氏は強調した。
ムーディーズ・レーティングスはムーディーズ・アナリティクスとは別組織だ。ザンディ氏に16日夜にコメントを求めたが、これまでのところ返答はない。
原題:US Loses Last Top Credit Rating With Downgrade From Moody’s (3)(抜粋)
(エコノミストなどの見解を追加して更新します)
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