(ブルームバーグ):任天堂がおよそ8年ぶりに投入する新型家庭用ゲーム機「スイッチ2」に、トランプ米大統領の関税政策が暗い影を落としつつある。上昇基調にある株価の先行きにも暗雲が垂れ込めてきた。
足元の任天堂株は好調だ。2日に史上最高値を更新し、トランプ氏が貿易相手国・地域への上乗せ関税を発表した4月初め以降の上昇率は19%と、東証株価指数(TOPIX)の1.7%高を大幅に上回る。世界同時発売を6月5日に控えたスイッチ2への想定を上回る需要の強さが今のところは関税懸念に勝っている。
だが、上乗せ関税が実際に発動し、米国での販売価格に跳ね返る可能性が株価の見通しを曇らせている。スイッチ2の米国向け価格は現在449.99ドル(約6万4000円)と、初代スイッチより既に100ドル以上高い。ブルームバーグ・インテリジェンス(BI)の試算によると、関税の影響を相殺するには任天堂はさらに販売価格を約28%引き上げる必要がある。
トランプ政権は中国に最大145%、ベトナムにも46%の上乗せ関税を課す考え。英国を拠点とする日本株アナリストのペラム・スミザーズ氏の推計によれば、任天堂はスイッチの約66%を中国で、ほぼ30%をベトナムで生産しており、関税がこのまま発動すれば影響は甚大だ。
予約受け付け開始早々、米国の多くの小売店やウェブサイトで売り切れが相次ぐなど好スタートを切ったスイッチ2だが、販売価格が上がる場合、需要は鈍化する可能性があると一部のアナリストらは警戒している。
米ウェドブッシュ・セキュリティーズのアナリスト、マイケル・パクター氏は「一般の消費者はスイッチ2に600ドルは払わないだろう」と話す。「任天堂がソフトを売るには、まずゲーム機を普及させる必要がある」と言う。

市場関係者がまず関心を寄せるのは、任天堂が8日午後に予定する決算発表だ。
「関税やコスト上昇の影響にどう対応するか、戦略を明確に示すことが投資家の前向きな姿勢を維持するためには不可欠だ」と、株価指数プロバイダーのソラクティブでディレクターを務めるマイケル・ヌスケ氏は指摘。「明確な指針と透明性が、投資家の信頼感を高めるのに役立つだろう」とみる。
スミザーズ氏は、「任天堂は関税の不確実性を踏まえて控えめな見通しを提示する可能性がある」とした上で、「スイッチ2の販売台数が1500万台以下であれば失望される」と予想。さらに「株価が好調であることを考えると、1800万台でも短期的には利益確定の売りが出る可能性がある」との見方を示す。
バリュエーション面で任天堂株は売り材料に脆弱(ぜいじゃく)だ。予想株価収益率(PER)は約37倍と7年超ぶりの高水準にあり、家庭用ゲーム機で競合するソニーグループや米マイクロソフトを大幅に上回る。

任天堂の株価が高水準で推移していることについて、一部の市場関係者は「スーパーマリオブラザーズ」など関税の影響を受けにくいとされる知的財産の強さを挙げる。
ただ、ソラクティブのヌスケ氏は、「熱心なファンであっても大幅な価格上昇にはちゅうちょするだろう」と話す。株価がこのままの軌道で推移できるかどうかは、「実際の売り上げ成長にかかっている」と語った。
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