新政権の課題と躍進するAfD
17の閣僚ポストのうち、首相、経済・エネルギー相、外相を含む7ポストがCDUに、副首相兼財務相、労働・社会問題相、国防相を含む7ポストがSPDに、内相、食料・農業・コミュニティ相を含む3ポストがCSUに配分された。
新政権は、構造不況下にあるドイツ経済の立て直し、産業競争力の回復、米国との関税協議、ウクライナ支援の継続、企業の税・行政事務負担の軽減、労働市場改革、エネルギーの安定供給などへの対応が急務となる。
今回、政権を発足した二大政党は、下野した環境政党・緑の党にも協力を仰ぎ、連邦議会選挙後に旧議会を緊急招集する離れ業を駆使し、財政均衡を義務付ける債務ブレーキの見直しや、インフラ投資や気候変動対策に充てる特別基金の創設に成功した。
更なる債務ブレーキの改正や柔軟適用も視野に入れるが、新議会の下で憲法改正に必要な3分の2以上の賛成が得られるかは微妙な情勢で、国防費やインフラ投資以外の財政拡張の行方は予断を許さない。
政権崩壊で先送りされた今年度の正式な予算策定や秋に向けて本格化する来年度の予算審議において、連立政権内の不協和音が高まり、速やかな政策実行が難しくなる恐れもある。

連立政権外でも新政権を取り巻く政治環境は極めて不透明だ。2月の連邦議会選挙後の世論調査では、第一党となったCDU・CSUが大きく支持を落とすなか、第二党に躍進したAfDが一段と支持を伸ばし、両党の支持率が逆転しているものも珍しくない。
新政権の政策転換に対する期待が失望に変われば、AfDに対する有権者の支持拡大の追い風となりかねない。
それと同時に、ドイツの情報機関である連邦憲法擁護庁は今月2日、民族主義的な主張が民主主義と相容れないとし、AfDを極右組織として認定した。これを受け、一部の議員の間で、AfDの政党資格を剥奪すべきとの主張も広がっている。
ドイツではナチス台頭を招いた反省から、自由で民主的な秩序を破壊する目的を持った政党の活動が認められていない。

(※情報提供、記事執筆:第一生命経済研究所 経済調査部 首席エコノミスト 田中 理)