加藤勝信財務相は2日、日本が保有する米国債について、関税交渉のカードとしてはあるが、切るのか切らないのかは別の判断だとの見解を示した。

テレビ東京の報道番組で語った。加藤氏は、今後の関税交渉の中で米国債を安易に売らないと明言することは日本の手段の一つになり得るかどうかを問われ、日本政府による保有は「米国を支援するために持っているわけではない」とも発言した。

  • こういうカードがありますね、というのはいろいろ指摘をいただいている
  • 為替を操作するようなことはしていない

日本の米国債保有残高は外国勢で最大だ。米財務省によると、2月時点では1兆1259億ドルと2024年4月以来の高水準となった。

ニッセイ基礎研究所の上野剛志主席エコノミストは電話取材で、日本の米国債保有を巡る加藤財務相の発言について、関税をかけるなら売却すると捉えられて米政府を過度に刺激し、かなり危険だと述べた。

加藤財務相は4月9日の国会で、米関税措置などに対応する財源として米国債を売却してはどうかと問われ、外貨準備を取り崩して円貨に変えるのは円買い・外貨売りの介入と実質的に変わらず、「慎重に考えていかなければならない」と発言。米国への配慮があるのかと問われると、外貨資産は将来の為替介入に備えて十分な流動性確保が目的で、「米国との関係で売却できないということはない」と述べた。

加藤財務相

日米関税協議に向けた米国債の取り扱いについて、政府は姿勢を明確にしていない。先月14日の衆院予算委員会では、野党側から日米関税協議に向け、為替を円高・ドル安に誘導する米国債の売却などのカードを手元に持っておくべきだとの指摘があった。これに対し石破茂首相は「為替について発言することは市場の臆測を招く」と述べ、コメントを控えた。米国債売却についても直接言及はしなかった。

米国債に関しては、自民党の小野寺五典政調会長も先月13日に「同盟国なので、米国の国債を意図的にどうするかということは政府として考えることはない」と発言していた。

加藤財務相の発言に対して2日の米国債市場と円相場はほぼ反応せず、円は対ドルで145円台と3週間ぶり安値圏で推移。金融政策決定会合の結果を受けた日本銀行の利上げ観測後退などで円安基調にある。

三菱UFJモルガン・スタンレー証券の植野大作チーフ為替ストラテジストは電話取材で、加藤氏の発言について「聞かれた質問に答えただけで、安全運転に徹していた印象で、為替相場への影響もなかった」と述べた。

日本の閣僚が自国の米国債保有に関して発言するのは今回が初めてではない。1997年に当時の橋本龍太郎首相がニューヨークの講演で、米国債保有は日本の国益に合うのかと質問され、「実は私たち、何回か財務省証券を大幅に売りたいという誘惑にかられたことがある」と切り出した。

橋本氏は米通商代表部(USTR)との自動車交渉をしていた時などと説明したが、市場は「橋本首相が米国債の売却を示唆」と受け止め、米国債と株式相場が急落。当時の蔵相や財務官らは日本政府として米国債売却は考えていないと釈明し、火消しに動いた経緯がある。

(文末に閣僚による過去の類似発言を追記)

--取材協力:日高正裕、山中英典、間一生.

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