世界の主要中央銀行の多くは、今後数カ月で利下げを準備する見通しだ。トランプ米大統領が引き起こす貿易戦争で生じる自国経済や経済圏への影響を和らげたい意向が背景にある。

トランプ政権による関税の実施は流動的だが、世界の至る所で成長見通しを押し下げ、米経済のリセッション(景気後退)リスクも高めた。世界貿易機関(WTO)は今年の国際貿易の減少を既に予想し、国際通貨基金(IMF)も世界経済見通しを今週下方修正することになりそうだ。

 

そうした状況があるため、最悪の影響の緩和に向け、大部分の中銀当局が慎重ながらも借り入れコスト引き下げに動くとブルームバーグ・エコノミクス(BE)は予測する。先進国・地域の金利を反映するBEの総合指標は、年内に約0.5ポイントの低下が見込まれる。

過去の消費者物価高騰の影響で残るインフレ圧力、現在の危機から今後生じるインフレ圧力に警戒を要するという理由で、金融緩和は慎重に進める必要がある。

パウエルFRB議長

米連邦準備制度は、より大きな困難に直面している。ホワイトハウスが発動する関税措置は、米消費者にとって物価の押し上げ要因になる可能性が高い。パウエル米連邦準備制度理事会(FRB)議長は16日の講演で、悪影響を注意深く見守る姿勢を示した。そうしたリスクこそ、米国での大幅な金融緩和をBEが想定していない理由の一つだ。

ラガルドECB総裁

世界各国・地域の主要中銀は、インフレ再燃の危険な兆候を判断するため、貿易戦争における対抗措置と事態のエスカレートを警戒することになるだろう

欧州中央銀行(ECB)のラガルド総裁は先週、物価への影響は「時間の経過とともにより明らかになろう」と発言した。

日本銀行

  • 政策金利である無担保コール翌日物金利の誘導目標 :0.5%程度
  • BEの2025年末予測:0.75%
  • スワップ市場は年内0.25ポイント利上げの約50%の確率を織り込む

日本銀行の植田和男総裁にとって、米国の関税措置が利上げの軌道を大幅に再考する正当な理由になるか見定めることが、今四半期(4-6月)の任務と言える。

日銀の植田和男総裁

トランプ政権の関税措置が政策担当者と企業の経営幹部らを驚かせた後、日銀を巡る主な焦点は、5月に利上げを決定するかどうかではなく、年内に利上げを再開できるかどうかに移った。

過去にも為替操作をけん制してきたトランプ大統領の認識が不確定要素となる。過度な円安是正のため、日本の政府・日銀は介入を繰り返してきたが、円が下落する場合、円相場下支えで利上げを求める政治的圧力と、それが景気の勢いをそぐリスクとの板挟みになりかねない。

BEの木村太郎シニアエコノミストは「トランプ政権の関税を巡る混乱は、日銀の政策判断を難しくした。市場の動揺で日銀が5月の利上げを見送らざるを得なくなるだろうが、引き締めの方向性は崩れていない。昨年の円相場急落の影響がインフレに遅れて反映される状況や、堅調な賃金動向を背景に日銀は7月に利上げを再開する公算が大きい。原油価格の下落がインフレを抑制することで、利上げはその後休止されるが、春闘での力強い賃上げが26年に2回の利上げを促し、政策金利は1.25%になると見込む」と見解を示した。

米連邦準備制度

  • フェデラルファンド(FF)金利の誘導目標:4.25-4.5%
  • BEの25年末の上限予測:4.25%
  • 短期金融市場は今年3回の0.25ポイント利下げを完全に織り込み、4回目について約60%の確率を反映している
  • スワップ市場は6月までに0.25ポイントの利下げが決まる70%の確率を織り込む。今年最初の利下げとなる

BEのエコノミスト、エステル・ウー氏は「25年第1四半期(1-3月)もインフレは高止まりし、個人消費支出(PCE)コア価格指数の上昇率は連邦準備制度の2%の物価目標をなお軽く上回る。連邦公開市場委員会(FOMC)メンバーは、関税で生じる物価圧力にますます不安を募らせている。われわれは市場が織り込む約3回よりかなり少ない年内1回の利下げが、第4四半期(10-12月)に決定される可能性が高いとみている。今年の多くの期間を通じて、連邦準備制度は様子見姿勢を続け、その過程で失業率は4.8%に上昇するだろう」と分析した。

 

ECB

  • 中銀預金金利:2.25%
  • BEの25年末予測:1.75%
  • 市場は年内3回の0.25ポイント追加利下げを想定し、次の動きは6月になる公算が大きい

原題:Central Banks Stare Into Trade-War Abyss With Rate Cuts Primed(抜粋)

(FRBの政策金利見通しなどを追加して更新します)

--取材協力:Michael Arnold、Monique Vanek、Scott Johnson、Nduka Orjinmo、Ntando Thukwana、Ott Ummelas、Peter Laca、Piotr Skolimowski、Swati Pandey、Tom Rees、Catarina Saraiva、Anthony Halpin、藤岡徹、Tracy Withers、Agnieszka Barteczko、Troy McCullough、Vince Golle、Alexander Weber、Alex Vasquez、Aline Oyamada、Anup Roy、Claire Jiao、Bastian Benrath-Wright、Beril Akman、Erik Hertzberg、Jean Chua、Manuela Tobias、Martha Viotti Beck、Matthew Brockett、Matthew Malinowski.

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