(ブルームバーグ):日本銀行元理事の山本謙三氏は、当面の日銀の金融政策運営に関し、トランプ米大統領による関税政策の影響の見極めに重点が置かれ、一段と動きづらい状況になるとの見解を示した。
山本氏は14日のインタビューで、米関税政策は当然ながら景気には下押しとなり、同時に円高が進行すれば「日本経済にとって相当にきつい」と指摘。為替を含めて物価への影響が不透明な状況下で、日銀は関税の影響について安易に結論を出すことはしないとし、上乗せ関税や米中貿易戦争の行方などを「見極めることに重点が置かれると思う」と語った。
現在の日銀の政策運営は、基調的な物価上昇率が目標の2%に達していないことを理由に、政策金利の引き上げをゆっくり進めることが前提になっているとみる。2%定着を最優先に位置付ける中では、米関税措置を受けて「より動かない方向での政策運営になっていくのではないか」との見方を示した。
米国は日本などへの上乗せ関税を90日間停止する方針を示した。一方で、鉄鋼・アルミニウム関税や自動車関税に対する25%の追加関税の対象となっており、日本の中核産業への影響が懸念される。

植田和男総裁は14日の国会答弁で、一連の米関税政策によって内外の経済・物価を巡る不確実性が大きく高まったとし、経済・物価・金融情勢を予断を持たずに点検して適切に政策を運営していくと述べた。金融市場の混乱などで早期利上げ観測は急速に後退しているが、日銀は政策運営姿勢の観点からも慎重になりやすい状況にあると山本氏はみている。
山本氏によると、トランプ政権下では関税措置をはじめとした政策に関する霧が晴れることはなく、常に不確実性があることを認識しなければならないという。日銀の次の利上げのタイミングを予想するのは極めて難しいとする一方、日銀は昨年7月の利上げ後に市場が混乱した教訓を踏まえ、利上げのタイミングが近づけば、何らかのヒントを出してくるだろうと語った。
待ちの姿勢
日銀は昨年3月に17年ぶりの利上げに踏み切り、その後の2回の利上げで政策金利を0.5%程度に引き上げた。目標を上回る物価上昇率が続く中、トランプ関税がなければ、急いで政策金利を引き上げていくべき局面と山本氏はみているが、物価2%の定着のために利上げをゆっくり進める現在の日銀の政策スタンスは、「異次元緩和の基本的なフレームワークが維持されている」という。
こうした曖昧な姿勢は、いつでも柔軟なスタンスをとれるように日銀が意図的に行っている可能性があるものの、「動かない日銀」の印象を強めている面があると指摘。政府が積極的に物価高対策に取り組む一方、日銀は待ちの姿勢で現在の物価高を容認しているように見え、「いつの間にか、物価対応が政府の仕事のようになってしまっている」と危惧する。
日銀が示している物価安定の定義に照らしても、国民は現在の物価が安定しているとは思っておらず、「むしろ、皆が物価が高いと怒っている状況だ」という。基調的な物価上昇率が2%に達していないと主張し続けている日銀とのギャップは大きいとし、国民が物価上昇で困っている中で、「本来は金融政策が対応するべき仕事だ」と語った。
日銀は物価の安定について、「家計や企業等のさまざまな経済主体が、財・サービス全般の物価水準の変動に煩わされることなく、消費や投資などの経済活動にかかる意思決定を行うことができる状況」と定義している。
その上で山本氏は基調的な物価上昇率に関し、現在は利上げをゆっくり進めるための材料になっているが、実際の水準が示されていないだけに、「場合によっては、利上げをやめるための材料にもなり得る」と指摘。日銀は基調的な物価上昇率という言葉を「都合よく使い過ぎているのではないか」と苦言を呈した。
植田総裁は3月の会見で基調的な物価上昇率について、もう少し明確に示せればという問題意識はずっと持っているとしつつ、「残念ながら、非常に素晴らしいものが見つかったという段階では必ずしもない」と説明。自身の見立ては「1%以上、2%は下回るという中にはいると思っている」と述べるにとどめた。
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