米国と中国の貿易戦争が激化する中で、先に折れるのは中国ではないだろう。中国共産党の習近平総書記(国家主席)は、経済的にも政治的にもトランプ米大統領よりもはるかに大きな痛みに耐えることができる。

米国に次ぐ世界2位の経済大国、中国はトランプ政権の関税政策を「脅迫」と呼び、激しく反発している。「最後まで闘う」と誓った中国は、報復措置として対米関税を125%に引き上げた。

トランプ氏は以前、習氏から「いずれ電話があるだろう」と述べ、中国側に猶予を与えたかのように見えた。しかし、中国はそれを和平提案とは受け取らず、むしろパフォーマンスと捉えているようだ。米国が条件を設定するような会合への出席に中国は応じないだろう。

中国は本格的に動き出している。追加の景気刺激策について話し合うため、最高指導部による会議を開催し、また、米国との貿易に関する2万8000字に及ぶ白書を発表。話し合いの場を持つ意思があることをあらためて示す一方で、米国に対して「自業自得」と警告を発した。

この貿易戦争は米中双方に打撃を与えるだろう。ブルームバーグ・エコノミクス(BE)は、中国からの輸入に対する米国の平均実効関税率は113%前後になると推定。たとえ、中国が人民元相場の管理を緩め、輸出を促進し、経済の保護を図ったとしても、国内総生産(GDP)の最大3%が危険にさらされると予測している。

中国は市場を安定させるために追加融資を行うとも表明。米経済への打撃も深刻なものとなるだろう。米連邦準備制度のインフレ対策が損なわれるのではないかという懸念もある。

政治闘争

習氏はトランプ氏にはないものを持っている。それは権威主義的な政治体制だ。トランプ氏は来年の中間選挙を控えているが、選挙のない中国で習氏は今や毛沢東初代国家主席以来最も権力のある最高指導者だ。

党内対立は依然として問題だが、習氏はそれと闘ってきたとオーストラリアの元首相で習氏に関する著書もあるケビン・ラッド氏は指摘する。

習氏は共産党をあらゆる問題解決の主役に据え、米国が主導する秩序に挑戦すべき時が到来したとの民族主義的イデオロギーを推進しているとラッド氏は外交専門誌ディプロマットとのインタビューで語った。

中国国民がトランプ氏の貿易戦争は痛手だと感じている今、この見解が正しいことが示されるだろう。中国のソーシャルメディア上では、トランプ氏やバンス米副大統領が工場で汗を流し、ミシンに向かい「米国を再び偉大に」する靴や衣類を作っているという皮肉を込めた内容のミームが拡散した。

経済面でも中国は準備万端だ。李強首相はいかなる外部からの悪影響も「完全に相殺」する政策手段が中国には十分にあると述べ、関税の影響が深刻化するにもかかわらず、2025年の成長について楽観的な見通しを繰り返した。

トランプ氏はショックを受けるだろうと元米国家安全保障会議(NSC)中国・台湾部長フォード・ハート氏は筆者に語った。習氏が痛みに耐え得る許容範囲は「トランプ氏とは桁違いで、習氏は事実上、無制限に我慢できる」とハート氏は言う。これは政治闘争であり、恐ろしいほどの経済的代償を払ってでも、習氏は勝利するだろう。

トランプ氏は正しい。中国の貿易慣行は不公正だ。中国は産業界に多額の補助金を与え、外国企業がビジネスを行うことを困難にし、数十年にわたり為替相場を操作していると非難されてきた。

中国はまた、インド太平洋地域で一段と強圧的になっている。南シナ海ではフィリピンの船舶に対し日常的に嫌がらせをし、台湾には連日のように戦闘機や海警局の船を送り込んでいる。

しかし、超大国の米中は、この危機から抜け出す方法を見つけなければならない。地政学的および経済的なさらなる悪影響を回避するため、米中は互いに威嚇的な発言や報復関税を控える必要がある。ハイレベルの意思疎通と表舞台から見えない外交ルートの再開は不可欠だ。

今こそ、知的財産権の保護や補助金、技術移転など、外国人投資家が中国とのビジネスで直面する最も深刻な問題の幾つかについて、ルールを交渉すべき時だ。目的にかなう新たな2国間協定を結ぶ必要がある。

トランプ氏も習氏も国民を意識し、強さをアピールしようとしている。だが、それは世界経済史上まれに見る醜悪な分裂を引き起こしている。われわれは今、その巻き添え被害を受けている。

関連コラム:

  • 【コラム】トランプ関税の行き着く先、中国を再び偉大に-バスワニ
  • 【コラム】トランプ氏の関税「いじめ」、いずれ裏目に-バスワニ

(カリシュマ・バスワニ氏はブルームバーグ・オピニオンのコラムニストで、中国を中心にアジア政治を担当しています。以前は英BBC放送のアジア担当リードプレゼンテーターを務め、BBCで20年ほどアジアを取材していました。このコラムの内容は必ずしも編集部やブルームバーグ・エル・ピー、オーナーらの意見を反映するものではありません)

原題:China Won’t Blink First in Fight With the US: Karishma Vaswani (1)(抜粋)

コラムについてのコラムニストへの問い合わせ先:Singapore Karishma Vaswani kvaswani6@bloomberg.netコラムについてのエディターへの問い合わせ先:Ruth Pollard rpollard2@bloomberg.net

もっと読むにはこちら bloomberg.co.jp

©2025 Bloomberg L.P.