トランプ米大統領が進める貿易戦争では今のところ、金融サービス業界は対象外となっている。しかし銀行は痛みを感じている。

英銀HSBCホールディングスの時価総額は、アジアに重点を置く事業が矢面に立たされるとの懸念から、約300億ドル(約4兆4000億円)減少した。投資銀行業務が減速するとの見方が広がり、ゴールドマン・サックス・グループでは、実際の株価とアナリストが考える目標株価との差が、少なくとも過去10年で最大に拡大した。

JPモルガン・チェースの株価は7日に乱高下した。ジェイミー・ダイモン最高経営責任者(CEO)は投資家に対し、「世界経済が直面する多くのリスク」を理由に、自社株買いや配当による株主還元よりも、利益の内部留保を優先する方針を示した。

7日の米国市場開始前の計算によると、世界の主要な銀行株は過去1週間で全体で時価総額が7000億ドル余り吹き飛んだ。金融セクターはS&P500株価指数の中でも特に打撃を受けたセクターの一つだ。

ジェニー・モンゴメリー・スコットのアナリスト、クリス・マリナック氏はインタビューで「市場は反射的に反応している。現時点で最も大きな問題は信用だ。そして、銀行がリセッション(景気後退)という不確実性の高まりにどう対応するかが焦点になっている」と指摘した。

 

貿易に重点

ブルームバーグ・インテリジェンス(BI)のトマシュ・ノエツェル氏によると、HSBCやスタンダード・チャータードは、トランプ氏が仕掛ける貿易戦争の影響を最も受けやすい欧州の銀行だ。 両行はアジアに重点を置く貿易金融事業を大規模に展開している。ノエツェル氏は、関税を巡る交渉の行方次第では、こうした事業の収益は「現実直視」が必要になる可能性があると述べた。

スタンダード・チャータードは、米中関係が悪化して多くの企業がベトナムやフィリピンなど他のアジア諸国にサプライチェーンを移行させる中、顧客の支援に長く尽力してきた。 同グループの昨年のクロスボーダー収入は73億ドルに達し、法人・投資銀行部門の総収益の60%を占めた。この収入が危険にさらされる可能性もある。

ノエツェル氏は「米国の新たな関税と貿易摩擦の激化で、この勢いは鈍化するかもしれない。フィリピンに17%、ベトナムには46%という厳しい関税は、アジアの域内総生産(GDP)に重くのしかかる恐れがある」と指摘した。

景気後退懸念

関税の負担により経済活動が縮小し、消費者がインフレ対応に苦しむ中、米経済が年内に景気後退に陥ると予測するエコノミストは増えている。景気低迷と物価上昇が同時進行するスタグフレーションに陥るとの見方もある。

いずれにせよ、JPモルガンやバンク・オブ・アメリカ(BofA)、シティグループといった大手銀行のバランスシートには悪影響を及ぼしそうだ。消費者や企業が支払いに行き詰まる兆しが見えれば、金融機関は追加の引当金を積み増し、最終的には不良債権処理を余儀なくされるかもしれない。米大手銀の1-3月期(第1四半期)決算発表シーズンは11日から始まる。

投資銀の苦境

ウォール街の投資銀行はすでに、トランプ関税がもたらす二次的影響に向き合っている。関税の影響を見極めようと、企業が新規株式公開(IPO)や各取引の計画を見合わせようとしているからだ。

ゴールドマンやモルガン・スタンレー、ジェフリーズ・ファイナンシャル・グループ、エバコアなど、投資銀行業務から得られる収益の割合が高い銀行にとっては、特に悪いニュースだ。

モルガン・スタンレーのアナリストは「金融セクターの中で不況リスクや市場環境の悪化に最も敏感に反応する」投資銀行業務への依存度が高いことを理由に、ゴールドマンの株価見通しを引き下げた。

原題:Trump’s Tariff Chaos Becomes $700 Billion Storm for Big Banks(抜粋)

--取材協力:Georgie McKay.

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