(ブルームバーグ):日産自動車の社長兼最高経営責任者(CEO)に4月1日に就任するイバン・エスピノーサ氏(46)は「カーラバー(自動車愛好家)」を自認し、日産を象徴するスポーツカー「フェアレディZ」を自ら運転して通勤する。平時の自動車メーカーのトップとしては格好のPR材料となる話だが、深刻な経営不振に直面する会社の立て直しという重い任務を背負う立場だけに厳しい視線が集まる。
日産の社長交代が発表された11日もエスピノーサ氏は左ハンドル仕様のメタリックグレーの愛車で横浜市の本社に入った。この時点では自身が社長になることを知らなかった可能性がある。同日夕に開いた会見では社長就任を「今知らされたところ」と答えていた。
緊迫の度合いを増す日産が置かれた状況を示しており、20分余りで終わった会見でエスピノーサ氏は硬い表情に終始。25日には神奈川県厚木市の研究開発拠点で記者団に対して、自身が「同時に4つか5つ」の危機に直面しているとの認識を示した。
日産の株価はエスピノーサ氏の社長昇格が発表されて以降も低迷が続く。足元の株価は400円を大きく割り込み、11日終値との比較で約14%安となっている。
ロンドンに拠点を置く調査会社ペラム・スミザーズ・アソシエイツの自動車アナリスト、ジュリー・ブート氏は、エスピノーサ氏が車好きだとしてもそれが「日産が現在直面している深刻な問題を克服するには役立たない」と厳しく指摘する。
実際には日産が抱える深刻な問題は4つや5つにとどまらないかもしれない。巨大市場である米国や中国での販売不振の中で電気自動車や知能化などの次世代技術への対応を迫られ、今期(2025年3月期)純損益の赤字転落を見込むなど先が見通せない状況にある。
焦点となる資本面を含めた外部との提携でも、ホンダと始めた共同持ち株会社設立計画はわずか1カ月余りで破談となり振り出しに戻った。米国のトランプ政権による関税政策や円高方向に振れている為替相場、取引先部品メーカーの業績悪化なども懸念材料だ。
エスピノーサ氏は日産が強い市場シェアを持つメキシコ出身。03年に日産の現地法人に入社し、商品企画畑を中心に歩んだ。その後日産本社に移り、直近はチーフ・プランニング・オフィサーを務めていた。スイスやタイでも短期間だが勤務経験がある。
音楽好きの一面も
厚木市で開いた説明会では記者団に対して、音楽好きでギターやドラムの経験もあり、かつて日本ではバンドを組んでバーで演奏していたこともあることなども明らかにした。また、同じ車好きでも諸元表上の車の性能だけにこだわるのではなく、1台の車の背後にある物語を重視するという意味で、自身を表す言葉として「カーガイ(車好き)」というより「カーラバー(車愛好家)」という言葉がよりふさわしいと注釈をつけた。
ホンダとの破談の後、日産はソフトウエアで車の機能や性能を決める「SDV」の台頭も見越し、米国の先端テクノロジー企業との共同開発も視野に入れた提携を模索している。一方、ホンダからの出資受け入れを再検討するなどとした報道も出ている。
エスピノーサ氏は知能化を推進するため自動車業界以外のパートナーとの提携を視野に入れる必要があるとも語った。一方で、規模やパワートレイン技術、車載電池向けの投資などで相乗効果が見込める「伝統的な完成車メーカーをパートナーに選ぶという選択肢もある」とも述べた。
ペラム・スミザーズ・アソシエイツのブート氏はエスピノーサ氏にとっての最優先事項は他社との提携で、何らかのディールを成立させることが肝要だと述べた。
(株価情報を追加して更新します)
--取材協力:稲島剛史.
もっと読むにはこちら bloomberg.co.jp
©2025 Bloomberg L.P.