「早食いは太る」「身体に悪い」と言われている。古くからそういった指摘があり、食べる速さに関しては、生活習慣病を早期発見し、早期対策に結びつけることを目的とする特定健診の質問にも含まれる。
しかし、特定健診の検査項目や問診内容を見直すときには、この質問が削除候補にあげられることがある。削除候補にあがる主な理由は、特定健診では、将来の生活習慣病リスクを事前に予測できることが重視されるからで、早食いが太るのか、太っている人が早食いなのかが注目される。また、自己申告による質問であるため、誰と比べて早いのかによっても回答は異なり得ること等も指摘されることがある。
そこで、本稿では、早食いは本当に太ることを就労者の健診結果から確認した後、生活習慣病リスクを予測する指標となり得るか議論したい。
「早食いは太る」についてわかっていること
早食いである人には太っている人が多い、と言われることがある。早食いをすることによって必要以上に食べてしまうことが主な要因と言われる。また、急激に血糖値が上がることも太る要因とされており、摂取カロリーや運動量、年齢、食事やその他の生活習慣の影響を考慮しても、食べるのが速い人の方が太っていることが知られている。
また、早食いを改善したら痩せる効果があることを示す研究もある。子どもの方が大人よりも影響が大きいといった研究もあり、年齢によって影響が異なる可能性がある。
分析内容
本稿では、(1)早食いと現在の肥満を確認した後、(2)将来の肥満を事前に予測できる指標となり得るか検討する。また、(3)早食いかどうかが自己申告であることによる影響があるかどうかについても考えたい。
使用したデータは、日本生命保険相互会社が許可を得た健康保険組合から取得した健康診断結果のデータで、匿名加工が施されているため個人を特定する情報は含まない。
分析は2つのデータセットで行った。1つ目のデータセットは、2015年度、2016年度、2019年度の3年度とも健診を受けていてBMIのデータが取得できる、加入者資格が「本人」である男女を抽出した。なお、2015~2019年の全レコードのBMIの分布を確認したうえで、BMIが男女それぞれ99%信頼区間外のレコードを外れ値とみなして除外した。抽出されたのは、164,706人(男性131,027人、女性33,679人)で、それぞれの平均年齢は2015年度に男性47.2歳、女性46.5歳である。
肥満かどうかの判定には、BMI7を使って、18.5未満を「低体重(やせ)」、18.5以上25未満を「普通体重」、25以上を「肥満」とした。
2つ目のデータセットは、2019年度に健康診断を受けており、「人と比較して食べる速度が速い(速い/ふつう/遅い)」に回答している男女を抽出した。加入者資格は「本人」と「家族」とした。抽出されたのは、829,686人(男性516,958人、女性312,728人)で、それぞれの平均年齢は46.4歳、女性46.2歳である。