世界的な貿易戦争による経済的影響への懸念から、米株式市場の流動性が低下している。市場全体のボラティリティーを高める可能性があり、機関投資家にとって頭痛の種となっている

流動性は過去数年に徐々に低下してきた。規制強化や自動取引(アルゴリズム取引)の台頭などが要因だ。これに今は関税を巡る懸念という新たな要素が加わり、個別銘柄の価格変動が激化。機関投資家にとって大口の取引が一段と難しくなっている。

この現象は、広く注目されている2つの流動性指標に示されている。ドイツ銀行がまとめたデータによると、S&P500種株価指数先物(中心限月)の流動性は、2年ぶり低水準にある。S&P500種の先物取引高に基づくシティグループの流動性指数も、5日移動平均が2年ぶりの低水準付近で推移している。

自己勘定取引会社ブライト・トレーディングのロブ・フリーセン最高執行責任者(COO)は「こうした状況に気をもんでいる。非常にいら立たしい」と話す。「関税に対する不安が個別銘柄の値動きを増幅している。ボラティリティーが急上昇し、アルゴリズム取引が活発になるたびに、踏みつぶされそうな気持ちになる」という。

流動性の低下は、トレーダーがポートフォリオをヘッジする際のコストを押し上げる要因になる。また買値と売値の価格差(スプレッド)拡大につながり、投資家にとって適正な取引価格を見極めることが難しくなる。市場全体で見ると、投資家が希望の価格水準で株式を売却できなくなれば、株価急落に拍車がかかる恐れもある。

FRBも警告

米連邦準備制度理事会(FRB)は昨年11月に公表した金融安定報告で、「金融市場の流動性は概して低く、ボラティリティーが高まる局面では一段と逼迫(ひっぱく)する可能性がある」と指摘していた。

ブライト・トレーディングのフリーセン氏と同氏のブローカーは、エヌビディアやアップルといった超大型株以外のテクノロジー株を購入しようとしたが、取引が薄いため、狙っていた銘柄の株価が急騰してしまうという状況に直面した。ただし、割高な価格で買うのは避け、より良いオファーが出てくるまで待ったという。

ホッジス・イントリンシック・バリュー・ファンドの共同ポートフォリオマネジャー、デレク・モーピン氏は先月、売り込まれて割安になった小型株の購入を計画していたが、関税を要因とする株価変動を一因に、流動性が乏しかったと話した。

「流動性が改善するまで注文の執行を長く待たざるを得ない場合もある。今はポジションを解消する際にも、より柔軟な対応が求められる」とモーピン氏は語った。

関税が懸念されたほど厳しいものでなかったり、景気不安が和らいだりすれば、現在の状況は少なくとも一時的に改善する可能性もある。

ホライゾン・インベストメンツのスコット・ラドナー最高投資責任者(CIO)は、市場が関税関連のボラティリティーに慣れてくれば、流動性は個別株もS&P500種先物も共に改善する可能性が高いと指摘。「しかし、さらなる詳細が明らかになるまでは、トレーダーにとって非常に厳しい環境が続く」と述べた。

原題:US Stock Market Liquidity Drying Up as Trade War Concerns Mount(抜粋)

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