中国の人工知能(AI)スタートアップ、DeepSeek(ディープシーク)は、AI開発に何十億ドルも費やす必要はないことを業界に示しただけでなく、長らく勢いを欠いた中国テクノロジー業界に活気を与えた。そして今後、オープンAIやエヌビディアといった西側企業が代償を払うことになるかもしれない。

DeepSeekがわずか数百万ドルで構築したとされる強力なAIモデルで1月にオープンAIのお株を奪って以降、中国のテクノロジー業界大手は低コストのAIサービスを次々と市場に投入。オープンAIやアルファベット傘下グーグルなどのプレミアムサービスと比べた安さを売りに攻勢をかけている。中国企業による過去2週間の主要製品アップデートやリリースは大手企業だけでも10件以上に上る。

DeepSeekの台頭に関するリポート

百度(バイドゥ)は、DeepSeekの「R1」と直接競合する「Ernie(アーニー)X1」、アリババグループは独自のAIエージェントと推論モデルのアップグレードをそれぞれ発表した。ここ1週間だけ見ても、テンセント・ホールディングス(騰訊)がAIの青写真とR1への対抗策を打ち出したほか、アント・グループは中国製半導体を用いてコストを20%削減できる方法を共有した。DeepSeekも「V3」モデルをアップグレードした。

こうした急ピッチな機能強化や調整は、中国企業によるDeepSeekの流行への便乗を意味するだけではない。これらのAIモデルはほぼ全てがオープンソース化されており、世界標準とベンチマークを設定し、世界市場でシェア拡大を目指す開発者の努力の表れでもある。このようなAIモデルが欧米のAI開発者による最先端システムに匹敵するかどうか、あるいはそれを超えるかどうかは、まだ結論が出ていないが、米大手企業のビジネスモデルへのさらなるプレッシャーとなる。

対話型AI「ChatGPT(チャットGPT)」を手掛けるオープンAIはここにきて、注意深くバランスを取ろうとしている。DeepSeekがオープンソースのアプローチで成功を収めたことを受け、オープンAIは一部技術を無償公開することを検討。一方で最も高度な製品には引き続き高額の課金を行う構えだ。DeepSeekの低コストのテンプレートが模倣された場合、高価なAIチップに特化するエヌビディアの利益が圧迫され、バリュエーション(株価評価)の「調整」は避けられないとベクタラの創業者アムル・アワダラ最高経営責任者(CEO)は分析する。

中国企業は過去に電気自動車(EV)やソーラーパネルといったさまざまな業界において、価格競争力などで圧倒し、世界のライバルを追い落としてきた。このパターンがAI分野で再現されつつある可能性がある。

米カリフォルニア州パロアルトに拠点を置き、企業によるAIエージェントやAIアシスタントの構築を支援するベクタラのアワダラ氏は「大きな問題だ。企業にとって利益率の大幅な圧縮につながる傾向がエコシステム全体で見られるようになるだろう。AIモデルビルダーだけでなく、業界の成長をけん引している大手AI関連企業も同じだ」と指摘した。

原題:China Floods the World With AI Models After DeepSeek’s Success(抜粋)

--取材協力:Claire Che、Luz Ding、Amy Thomson.

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