2025年度のPB黒字化

2025年度予算案(修正後)における財政赤字は、28.6兆円(286,471億円)である。ここから国債費(282,179億円)を差し引くと▲4,292億円になる。これが基礎的財政収支赤字(PB赤字)の金額になる。前年の補正後予算の赤字額が▲16.6兆円だったから、2025年度には大幅な赤字改善になる予算案だ。政府が掲げてきた2025年度におけるPB黒字化が目前にあることは、石破首相の手柄と言ってよい。

政府目標のPB黒字化は、GDPベースであり、こうした予算案とはいくらか食い違う。たとえそうだとしても、地方財政はずっとPB黒字が続いている。2025年1月17日に発表された中長期の経済財政試算では、2025年度の地方財政は6.3兆円のPB黒字になる。この試算では、国+地方のPB赤字は2025年度▲4.5兆円と赤字が残る格好である。とはいえ、GDPベースのPB黒字化には距離感があるとしても、一般会計ベースでの黒字は財政再建に向けて印象が良い。

目先の課題

今後の石破政権の課題は、7月に予定される参議院選挙での勝利である。何としても過半数を与党で維持したい。そのためには、経済における成果が重要である。G7諸国では、ここ1・2年でほぼすべての国で、首相か大統領いずれかが交代している(イタリア以外)。与野党の間での政権交代も起こっている。その背景には、物価上昇による国民の不満がある。石破首相も、物価高騰があるから支持率が上がりにくい。それに対抗する措置がなければ、参議院選挙を乗り切ることは難しい。

1つの追い風は、春闘における高い賃上げ率だろう。3月12日の集中回答日では、大手企業の高い賃上げが期待される。賃上げが中小企業にまで波及すれば、それが与党支持拡大の経済的基盤になる。物価高騰への不満を緩和する材料にもなるはずだ。

この高い賃上げ率は、所得税収を増やし、財政収支にもプラス作用をもたらす。2025年1月の政府経済見通しでは、2025年度の名目GDP成長率は2.7%(2024年度2.9%)が見込まれていた。政府の税収はこれを前提にしているので、賃上げによって成長見通しが上振れれば、税収増が期待できる。日本経済研究センターのESPフォーキャスト調査(2月)では、2025年度の名目GDP予想は2.99%といくらか政府予想を上回っている。

反対に、2025年度予算の拡大要因は隠れていないだろうか。筆者がすぐに思い付くのは、電気・ガス代とガソリン等4油種の価格補助の延長である。2024年度補正予算では、電気・ガス代の支援3,194億円、4油種の支援に10,324億円をかけていた。これに例年のように継続している住民税非課税世帯への給付金(1世帯3万円)の4,908億円を加えると、約1.8兆円になる。こうした毎年の補正予算で、延長に次ぐ延長を繰り返している費目をいくらか縮減・停止しなけば、2025年度実績でのPB黒字化は難しいと思われる。

石破首相自身は、3月8日の会合で「受けることばっかりかっていると国は滅びる」と述べていた。その通りだと思う。これは政治の信用のことを述べているのだろう。是非、首相の想いを財政面での成果につなげてほしいものだ。

(※情報提供、記事執筆:第一生命経済研究所 経済調査部 首席エコノミスト 熊野英生)