(ブルームバーグ):トランプ米政権の混沌(こんとん)とした関税政策が経済に与える影響は、どれほど深刻なものになるのか。大統領がダメージを食い止めないのであれば、米連邦準備制度が何とかするだろうと市場は考えている節がある。それは楽観的過ぎると筆者は考える。
トランプ大統領がカナダと中国、メキシコに課しているような関税の引き上げは、インフレと成長の両方に影響を及ぼす。輸入品の価格が上昇すると、国内生産者はそれを良いことに値上げに踏み切る。価格高騰は個人消費を圧迫し、関税の水準や継続期間、報復措置に関する不確実性は、企業が雇用や投資を先延ばしにする原因となる。
今のところ市場では、経済成長への影響が支配的だと考えられているようだ。株価が大幅に下落する中で米利下げ期待は高まっており、関税政策が物価上昇を招いても米金融当局の動きが妨げられることはないとの見方を示唆している。米当局はインフレを一時的なものと判断し、利下げで経済を支えるだろうという論理だ。
残念ながら、このシナリオは2つの重要な点で不完全だ。まず成長が鈍化しても、労働市場には予想ほどのスラック(たるみ)や賃金の押し下げ圧力は生じない。不法移民が激減し、トランプ政権が国外退去者を大幅に増やす計画を立て、米国生まれの働き盛りの労働者が非常に緩やかなペースでしか増加しないことを踏まえると、失業率を安定させるには、近年必要とされている毎月15万-20万人の雇用者増加に対し、同5万人程度で十分だ。
次に、関税に関連した価格上昇がインフレ期待を押し上げる場合、米金融当局がそれを無視することは難しい。トランプ氏の政策がこれほど極端ではなく、インフレ率も米連邦公開市場委員会(FOMC)の目標である2%を下回っていた1期目、これは問題ではなかった。今回は関税引き上げの規模が何倍も大きい。さらに悪いことに、FOMCが長く掲げてきた2%インフレ率の達成は、関税政策によってさらに遅れる可能性がある。インフレ期待値は既に上昇している。2月の米ミシガン大学消費者マインド指数で5-10年先のインフレ期待は3.5%と、1995年以来の高水準だった。
潜在成長率の低下と物価およびインフレ期待の上昇という組み合わせは、市場にとって好ましいものではない。成長鈍化は収益を圧迫し、株価を下落させる。利下げを渋る米当局の姿勢は債券下落につながる。不確実性とリスクの高まりはその両方に打撃を与える。
筆者は来週のFOMC会合後に発表される経済予測に、こうした好ましくない見通しが反映されるとみている。国内総生産(GDP)予想は下方修正され、インフレ見通しは引き上げられるだろう。ただ失業率の予測はさほど変化しないだろう。雇用と共に労働力人口の伸びも減速するからだ。2025年に0.25ポイント利下げを2回想定する予測中央値は維持されるだろう。年内わずか1回の利下げに後退させるには、多くの当局者が見方を変える必要がある。不確実性が高く、政治的に微妙な時期にそれはありそうにない。
(ニューヨーク連銀の前総裁、ウィリアム・ダドリー氏はブルームバーグ・オピニオンのコラムニストです。このコラムの内容は、必ずしも編集部やブルームバーグ・エル・ピー、オーナーらの意見を反映するものではありません)
原題:These Tariffs Will Be Worse Than Markets Think: Bill Dudley(抜粋)
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