マイケル・バーリ氏が最近、画像処理半導体(GPU)の価値が想定よりも急速に失われる可能性を警告した。

2008年の世界金融危機前に米住宅市場の崩壊に賭けた「世紀の空売り」で有名になった同氏の指摘なだけに話題を呼んだが、AI向けハードウエアが早晩陳腐化するのではないかという懸念自体は、以前からあった。

3年前にChatGPTが登場して以来、企業はAIインフラ整備にほぼ際限なく資金を投じ、主に高性能チップの確保に走ってきた。

サブプライム住宅ローン問題を見抜き、世界金融危機を予見したバーリ氏の見立てが今回も正しければ、AIインフラ構築に巨額の資金を投じるビッグテックの株を買ってきた投資家は極めて危うい立場にある。

現在のビッグテック株のバリュエーション(評価額)は非常に高く、過熱感が強い。とはいえ、足元では主要テック企業の7-9月(第3四半期)決算がきわめて好調だったことから、AIブームがバブルだとの懸念は一時的に和らいだ。

さらなる重要な試金石はエヌビディア決算だ。いまや同社の業績は、マクロ経済イベント並みの重みをもって受け止められている。

テクノロジー企業以外も第3四半期の決算説明会でAIに言及している。その傾向はゴールドマン・サックスがまとめた下のチャートに示されている。

米国勢調査局とゴールドマンが実施した企業調査によると、AIを導入していると回答した企業の割合は下のチャートの通りだ。

これまでのところ、AIについて語るだけではあまり株価上昇につながっていない。

ゴールドマンのストラテジスト、デービッド・コスティン氏は、AI関連銘柄を3つのカテゴリーに分類している。AIインフラ(データセンター)を構築・運用するハイパースケーラー企業群、AIを応用したサービス提供による収益拡大が見込まれる企業群、そしてAI導入によって恩恵を受けるとみられる企業群だ。

このうち株式市場で評価されているのはインフラ関連企業だ。

コスティン氏の分析によると、AIサービスによる収益拡大が見込まれる企業群の株価は、市場全体とほぼ同じ水準で推移している。AIの導入が利益押し上げに必要と見なされる企業群は大きく出遅れている。

期待通りにAI技術の実用化が進み成果が出るならば、出遅れのこうした銘柄は割安で「絶好の買い」となるだろうが、今のところそれは明らかではない。

データセンターを建設・保有・運用するAIインフラ構築の担い手企業は現在高く評価されているものの、巨額投資を実際の収益に結びつけることが求められる。

ベイン・アンド・カンパニーの試算では、投資コストを正当化するには2030年までに年間2兆ドルの収益を上げる必要がある。スパークライン・キャピタルのカイ・ウー氏は、現在の収益がおよそ200億ドルであることから100倍の拡大が必要だと指摘している。

インフラが急速に陳腐化するリスクもある。データセンターが5年以内に再び巨額の投資を迫られるリスクはある。これはバーリ氏が指摘した問題とも重なる。

UBSのウルリケ・ホフマンバーカーディ氏は、株式市場がこれまでAIの担い手だけを評価してきた理由について、幾つかの仮説を示している。

第1に、AIサービス提供やAI活用のための投資の具体的なリターンが「いつ、どこで、どのような形で」顕在化するのかについて不確実性が大きく、それに賭けるのは時期尚早だという点だ。

第2に、インフラ分野は少数の巨大企業に集中している一方、AIを利用したその他の事業の領域は競争が激しく、追加的な利益を得るどころか、競争力維持のためのコスト増に直面している。

第3の可能性として、AI活用の恩恵を最も受けているのは上場企業ではなく株式非公開企業であるため株式市場に反映されていない可能性がある。

また、AIサービス提供で収益を得る企業は、実際にはAIの基盤を支える層の企業と同一になる可能性がある。インフラ提供企業がサービスまでを垂直統合しているため、ハイパースケーラーなどが消費者向け・企業向けのAIサービスも提供するようになるという見立てだ。

このシナリオが現実となれば、「マグニフィセント・セブン」以外の多くの企業にとって厳しい局面が訪れる。

既にこうした見方が市場に浸透し始めている兆しもある。テクノロジー投資のセンチメントを示す先行指標とされるビットコインはアジア時間18日の取引で一時9万ドルを割り込み、2025年の上昇分を全て失った。

 

(ジョン・オーサーズ氏は市場担当のシニアエディターで、ブルームバーグ・オピニオンのコラムニストです。ブルームバーグ移籍前は英紙フィナンシャル・タイムズのチーフ市場コメンテーターを務めていました。このコラムの内容は、必ずしも編集部やブルームバーグ・エル・ピー、オーナーらの意見を反映するものではありません)

原題:You Don’t Need Burry to Know How the Bubble Blows: John Authers(抜粋)

--取材協力:Richard Abbey.

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