(ブルームバーグ):カナダではトランプ米大統領の関税への対抗措置として、年金基金に国内投資の拡大を促す「インベスト・カナダ」運動が盛り上がりを見せている。米国製品をボイコットし、カナダ産を購入するといった国内優先のムードが投資の世界にも広がってきた。
ブルームバーグの分析によると、「メープル8」として知られるカナダ大手年金基金の運用資産は合計で約2兆3000億カナダ・ドル(約230兆円)で、その約4分の1がカナダ国内向けの投資だ。
カナダの革新的な年金モデルは長年、独立した運営、外部の資産運用会社に頼らない内部での管理、長期的に有益な投資を見極めることのできる高度人材の起用により、世界的に高い評価を得てきた。世界銀行は2017年、カナダの年金モデルは「世界トップクラスの年金組織を構築するための実践的な教訓」を体現していると述べている。
オンタリオ州教職員年金基金(OTPP)は1990年代初頭、独立性と長期投資に重点を置く現在のメープルモデルを先駆けて導入した。資金調達で危機的な状況に陥ったことをきっかけに、同州が年金モデルを刷新したことが背景にある。その後、カナダ年金制度投資委員会(CPPIB)など他の年金でも大規模な見直しが行われた。カナダ年金基金の理事会は目下、金融業界出身ら投資に精通した幹部が率いている。
だが、足元では政治家や事業経営者から国内投資を拡大するよう求める声が強まっており、カナダの年金モデルに圧力がかかっている。
とりわけトランプ氏が大規模な関税を発動する考えを示し始めたことで、年金基金がカナダ国内に十分な資金を投じていないとの批判が高まった。カナダ国民の間では米国産製品の不買運動が広がり、自国経済を支援しようとする機運が高まっている。

カナダの主要閣僚はこれまで、年金には介入しない姿勢を示していた。だが最近では、成長低迷や生産性の低さ、住宅危機に苦しむカナダの活性化に年金マネーをより多く振り向けるよう求めるようになっている。
昨年12月には、年金基金によるカナダ企業への投資を30%以下に制限する規則を撤廃すると財務省が発表した。
当時財務相を務めていたクリスティア・フリーランド氏は「カナダはこれまで以上に資本確保へ懸命に戦う必要がある」とし、これには「カナダ国内への投資を促進し、支援することも含まれる」と述べていた。
昨年には、カナダの財界首脳およそ100人が「年金基金による国内投資促進に向けた規則改正」を求める財務相宛ての公開書簡に署名した。
ただ、年金基金にとって、今カナダへの投資を推進することは最悪のタイミングかもしれない。金利上昇に伴う流動性の低下やリターン悪化により、2008年の金融危機以来とも言える厳しい経済環境に直面しているためだ。メープル8の中には、ポートフォリオの約60%を占めるプライベート市場へのエクスポージャーが行き過ぎかどうか見直しを進める動きもある。
また、年金基金が独立性を維持することが重要であり、カナダ国内への投資を強制すれば、最終的に年金受給者の利益を損なう恐れがあると懸念する声も出ている。

原題:‘Buy Canada’ Pressure Builds on $1.6 Trillion in Pension Pot (1)(抜粋)
--取材協力:Christine Dobby.もっと読むにはこちら bloomberg.co.jp
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