(ブルームバーグ):数週間前に経営者向け在留資格の延長を申請した別家望之助氏は、昨年と同じようなことが起きないか不安を抱えている。承認手続きの遅れで銀行口座は凍結されたといい、健康飲料のスタートアップを経営する同氏にとって、それは「悪夢」のような日々だった。
別家氏は、在留資格延長申請の承認が遅れている理由について、一度も説明を受けたことがないと話す。同氏が持つのは延長が可能な「経営・管理」の在留資格だが、1年ごとの更新手続きを求められている。3年や5年の資格もあるが、なかなか許可がおりないという。
別家氏は、自身の事業が利益を上げていないことについて懸念され、手続きが遅れたのではないかと疑っている。
現在、日本の入国管理局は、「経営・管理」区分の在留資格申請者に対して、直近期及び直近期前期において共に売上総利益がない場合、投資家や銀行などからの投融資による資金調達に取り組んでいることや、製品・サービスの開発や顧客基盤拡大などに取り組んでいることを示す書類の提出を求めている。
ゼロから事業を立ち上げる起業家にとっては難しい要求で、別家氏はこの要件が、海外から来た起業家が新規事業を立ち上げることをほぼ不可能にしていると指摘する。
スタートアップビザ
日本政府は、外国人起業家を呼び込もうと「スタートアップビザ」と呼ばれる特例制度を拡充してきた。同ビザの有効期間は当初6カ月だったが、直近では最長2年に延びた。日本貿易振興機構(ジェトロ)によると、昨年5月までに同制度で来日した人は700人を超えたという。
ただ支援体制は十分とは言いづらい。スタートアップビザはいまだに6カ月ごとに更新手続きが必要で、起業家候補人材にとって、家を借りる時や銀行口座を開設する時の障壁になっている。日本に住む十数人の起業家にインタビューしたところ、スタートアップビザや在留資格の延長に関する厳格な規則、一時滞在者にとって利用が難しい銀行や不動産サービスに対するフラストレーションが垣間見えた。
黒字化に10年
日本でも成功している外国人起業家は存在する。日本に人工知能(AI)市場を見いだしたサカナAIは、米エヌビディアをはじめ、多くの日本企業からも資金を集めている。カナダ国籍のデイビッド・ハ最高経営責任者が率いる同社は、15億ドル(約2300億円)の評価額を誇り、日本で急成長しているスタートアップの1社だ。
同じくカナダ出身のラッセル・カマー氏が創業したペイディは、米決済大手ペイパル・ホールディングスに買収され、日本における「購入後払い」サービスの先駆者として評価された。ただ、こうした成功例は一握りで、多くの起業家たちは難解な規則や官僚主義に阻まれていると感じている。
ライドシェア大手のウーバー・テクノロジーズや民泊仲介の米エアビーアンドビーといった米国の有名スタートアップでさえ、黒字化までに10年以上を要した。初期のスタートアップで赤字が続くことは珍しくなく、投資家は大半のベンチャー企業が失敗することを知っている。
在留資格に関する手続きを主に手がける「行政書士明るい総合法務事務所」の長岡由剛氏は、日本の入管当局は新興企業に関する知識がほとんどないにもかかわらず、条件を設定していると指摘する。「入管として該当ビジネスの実態があるかどうかの確認はとても重要で必須だが、そのビジネスがうまくいくかどうかまで厳しい姿勢で審査をするのは行き過ぎだろう」と長岡氏は話す。
入国管理局の担当者は個々のケースについてはコメントを控えるとしたが、「経営・管理」の承認可否と手続きにかかる時間は、各申請者の事業の状況に応じて決まるとした。邦銀に問い合わせたところ、在留資格の承認手続きの遅れでは、口座の凍結ではなく、取引の制限がかかると説明。またマネーロンダリング(資金洗浄)防止の規則に従うために必要な手続きであるとした。
ローン組めず
ツェンベル・アマルサナ氏は、モンゴル最大の人事支援会社を立ち上げた後、より大きな市場とサポートを求めて2019年に日本に移住した。
ただ1年間の在留許可では住宅ローンも組めず、クレジットカードも作れなかった。家族滞在の在留資格を取得した妻と2人の娘たちは、在留期間がいつまで認められるか分からないという不安から、モンゴルに戻っていった。
日本での事業も成功し、すでに6年暮らしているが「iPhoneさえ分割払いで購入できない」とアマルサナ氏はため息をつく。
外国人起業家に対して日本での創業を支援するジョーダン・フィッシャー氏は、銀行口座の開設やオフィスの賃借に、日本人の保証人が必要になることに対して違和感を覚えている。「社会全体としてのリスク回避の意識が強いこと」が一因だとみる。
京都でゲーム開発事業を営むベンアモール・ファリド氏は、日本政府の外国人起業家を歓迎する姿勢に比べ、制度が厳しい部分にちぐはぐさを感じているという。
原題:Foreign Entrepreneurs Find Life in Japan Tangled in Red Tape(抜粋)
--取材協力:Isabel Reynolds、エディ・ダン.
もっと読むにはこちら bloomberg.co.jp
©2025 Bloomberg L.P.