カナダ国民がここにきて復讐(ふくしゅう)心に燃えた消費者へと変貌を遂げている。カナダに関税発動をちらつかせ、米国の51番目の州だとして同国首相を「トルドー知事」とけなしたトランプ米大統領への怒りを爆発させているためだ。カナダでは目下、米国製品の不買運動が盛り上がりをみせており、消費者が「報復」に出ている。

スーパーでは、店内に並ぶ米国産の農産物がしおれ始めている。地元の企業幹部はワインリストを精査し、カリフォルニア産のピノを注文しないよう注意するようになった。米国製のドッグフードを与えなくなった飼い主もいる。

在トロントの弁護士(証券訴訟)、エレン・ベスナー氏は最近、自宅にある米国製品の排除に乗り出した。最後に残った米国ブランドのメイク落としについても、ボトルが空になる前に、代替のカナダ製品を探しているところだ。愛犬イジーも米国製ドッグフードは禁止された。

カナダ・ビクトリアのスーパー店内に掲げられた「カナダ製品を買おう」のサイン 

「これまでずっと『カナダ製品を購入しよう』という意識を持ってきたが、関税の脅威がある今、その意識をさらに高めている」とベスナー氏は話す。

財布で意思表明

こうした動きは、米国とかねて深い関係にあったカナダにとって大きな変化だ。米商務省によると、カナダは毎年、欧州連合(EU)全体に匹敵する規模の米国製品を購入しており、昨年は約3494億ドル(約52兆3400億円)相当だった。米国を訪れる外国人観光客でカナダは最大の割合を占め、昨年1年間にカナダの旅行者による消費額は205億ドルに上った。だが、足元では多くのカナダ人が旅行の予約キャンセルに動いている。

アンガス・リード研究所のシャチ・カール所長は「これは意識が高まっていることの表れであり、財布で意思を表明している」と話す。バンクーバーに拠点を置く調査会社が先週行ったカナダ人3310人を対象とする調査では、米国製品を代替品に切り替える予定だとの回答が85%に上った。また米国への旅行を避けるために計画を変更するとの回答も半数近くを占めた。

カナダの航空会社も需要の減少を見込んで、米国へのフライトを減らし始めた。

調査会社プローブ・リサーチ(ウィニペグ)のプリンシパル、カーティス・ブラウン氏は「今、われわれにできることの1つは、米国にカネを渡さないことだ」と話す。同社が最近行った世論調査では、60%余りが休暇の旅行先として米国を避ける意向だと回答した。ブラウン氏の娘が通う学区でも最近、課外授業での訪米計画が中止となったという。

またアンガス・リードの調査によると、全体の41%がアマゾン・ドット・コムでのネット通販をやめると回答した。

自国製品の購入を優先する「バイ・カナダ」運動は全国のスーパーで目に付くようになった。「カナダ製品を購入しよう」とのメッセージとともに、国産品の上には真っ赤なメープルの葉のサインが掲げられており、消費者に目印を提供している。

カナダのスーパー大手ロブローズでは、こうした看板が設置される前の2月最初の週の段階で、国内産の食品の売上高がすでに8%増加していた。同社のパー・バンク最高経営責任者(CEO)がリンクトインで明らかにした。

先週、トロント中心部にあるスーパー大手メトロでは、ほぼ空っぽになったカナダ産リンゴの隣で、米国産リンゴがほぼ手つかずの状態で売れ残っていた。人気のない米国産パプリカの山はしなび、ひび割れているものもあった。

米国製品の不買運動は食料品だけにとどまらない。パーパス・インベストメンツ(トロント)のグレッグ・テイラー最高投資責任者(CIO)は、レストランのワインリストにある米国産のセクションを「腹いせに」飛ばしていると語る。

世界にも影響か

トランプ大統領は世界各国に貿易戦争を仕掛ける意向を示していることから、カナダでの不買運動は米企業にとって弱気な兆候だと専門家はみている。

トロント大学のデービッド・ソバーマン教授(戦略マーケティング)は「トランプ氏は、他国の国民をいとも簡単に怒らせる能力がある」と指摘。欧州やアジアの消費者からもカナダと同様の反応が起こり得ると予想している。イーロン・マスク氏のテスラのように、経営陣がトランプ氏と立場を同じくする企業は、とりわけ消費者から厳しい反発に直面しかねない。

欧州では1月、テスラの販売台数が域内全体で45%落ち込んだ。ライバル勢のEV販売は急増しているだけに、テスラの不調が際だった。

投資や人員を米国に移すことを選択したカナダ企業も、世間から激しい反発を受けるリスクがある。中央銀行総裁から政治家に転向したマーク・カーニー氏は、ブルックフィールド・アセット・マネジメントの会長を務めていた頃に、同社がトロントからニューヨークに本社を移転する決定を下したことを巡って、政敵から攻撃を受けている。カーニー氏は辞任を表明したトルドー首相の後任の座を目指し、自由党党首選に出馬している。ケベック州の運送会社TFIインターナショナルは、株主からの反対を受けて、米国への法人登記の移転計画を断念した。

カナダ・ビクトリアのスーパーに並ぶ米国産とカナダ産の野菜

犠牲は覚悟

「私たちは経済的な主権を維持したいのだ」。こう語るのはモントリオール在住のエンジニア、クリストファー・ディップ氏だ。同氏はバーコードをスキャンして消費者にその商品がカナダ製であるかどうかを知らせるアプリ「バイ・ビーバー」を共同開発した。ディップ氏によると、同アプリは自身とビジネスパートナーが手がけたアプリの中で最も急速に成長しており、2週間で3万5000件のダウンロードがあったという。

だが、「バイ・カナダ」の原則を貫くためには、カナダ人は特にコスト面で多少の犠牲を覚悟しなければならない。

かんきつ類はフロリダ産ではなく南米産を空輸する必要がある。地元産の農作物の中には、カナダの厳しい冬を越すために、エネルギー集約型の温室が必要なものもある。欧州やアジアからの輸入品は、米国から鉄道やトラックで運ばれてくる商品よりも、はるかに長い距離を移動して店頭に並ぶことになる。

それでも、激怒したカナダ人は、その上乗せ分を飲み込む価値があると主張している。

前出のベスナー氏は、米国製品を避けるために割高な商品を買う金銭的な余裕がない人がいることも承知しているが、それでも構わないと話す。

「金銭的な余裕がある人たちは、カナダ製品の購入にこだわって、購入できないカナダ人の分まで補うべきだ」

原題:‘Buy Canada, Bye America’: Trump’s Taunts Spur Fury in the North(抜粋)

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