(ブルームバーグ):セブン&アイ・ホールディングスは27日、経営陣が参加する買収(MBO)について、提案していた伊藤家から買収に必要な資金調達のめどが立たないと連絡があったと発表した。セブンはカナダのアリマンタシォン・クシュタールの買収提案含めて全ての選択肢を精査・検討するとしている。
セブンの社外取締役で構成する特別委員会は、クシュタールが仮に買収した場合に直面する米国の競争法上の深刻な課題への解決策を確認するため、同社と建設的に協議を続けているとした。伊藤忠商事もセブン創業家から、戦略パートナーとしての出資参画要請を受け真摯に検討を進めてきたが、検討を終了したと声明を発表した。
セブン株は27日急落し、一時前日比12%安の2100円を付けた。岩井コスモ証券の菅原拓アナリストは、有力視されていたMBOがなくなりクシュタールとの買収提案額での競争が見込めず、「期待がはく落した」と指摘。伊藤忠株は同6.8%高の6931円を付けた。同証券の清水範一アナリストは巨額の資金が必要になるという「心配が払しょくされて、今は上がっているのではないか」と述べた。
一方、伊藤忠の社債スプレッド(上乗せ金利)は縮小した。ブルームバーグのデータによると2026年3月に満期を迎えるドル建て債のスプレッドは、出資見送りが最初に報じられた26日に約53ベーシスポイント(bp、1bp=0.01%)と、前日の約62bpから縮小。24年10月以来の低水準となった。
モーニングスターのアジア株式調査部ディレクター、ロレイン・タン氏はセブンの株価がMBOの値段まで上昇していなかったことから、「市場は元々創業家によるMBOが可能だと想定していたわけではなかった」と指摘。現在のバリュエーションではリターンが出るか疑問で、「MBOのパートナーや銀行からのファイナンスが難しかったとしても驚きはない」と話した。
セブンも正念場を迎える。同社は社外取締役で構成する特別委員会で提案の検討を進めるが、クシュタールの買収提案への事実上の対抗措置だったMBOが頓挫したことで、同社との交渉に臨むか単独での成長を目指すかの二択を迫られる。セブンはこれまでクシュタールに対して米国市場で競争法に抵触する懸念への解決策を提示していないと反ばくしていた。
とはいえ直近のセブン株は2400円付近を推移しており、クシュタールが昨年提示した1株18.19ドル(約2700円)に及ばない。クシュタールの提案を退ける場合には株主に利益のある選択だと納得できるだけの相応の説明が求められる。またセブンが自力での企業価値向上に向けた7つの施策を近く打ち出すと読売新聞が27日に報じている。
T&Dアセットマネジメントの浪岡宏チーフ・ストラテジストは、長期的な目線の投資家にとっては、クシュタールの買収で短期的に株価が上がるよりも、セブンが持続的に自律的に企業価値を高める方が望ましいのではないかと指摘した。
(社債スプレッドの動きを追加して更新します)
--取材協力:岩井春翔、アリス・フレンチ、横山桃花、日向貴彦.もっと読むにはこちら bloomberg.co.jp
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