海面上昇に見舞われている太平洋の島国ナウル共和国は、自国のパスポート(旅券)を外国人に販売することを目指している。洪水の危険にさらされている低地に住む約1万人を移住させる費用を捻出するためだ。

パスポート取得に少なくとも14万500ドル(約2120万円)を支払い、ナウルの市民権を得た人でも、シドニーの北東約4000キロメートルに位置するこの島国に足を踏み入れることはまずないだろう。

しかし、ナウルのパスポートを持てば、英国、シンガポール、香港などへのビザ(査証)なし渡航が可能になる。

アデアン大統領は、数十年にわたるリン鉱石採掘により不毛の荒れ地と化した内陸部に、新しい町や農場、職場を開発する構想を描いており、まず6500万ドルを集めることを目指している。この計画では、最終的に国民の約9割が移り住むことになる。

「世界が気候変動対策について議論している傍らで、われわれは自国の未来を確保するために積極的な行動を取らなければならない」と、2023年に大統領に選出されたアデアン氏は質問に対し書面で回答した。「波が、家やインフラを洗い流してしまうのを待つつもりはない」と強調した。

「現在進行中の闘い」

ナウルはドミニカに続き、気候変動がもたらす影響の深刻化から国民を守るため、パスポートの販売による収益の活用を図る。海面上昇対策の資金確保で、小国が直面する困難が浮き彫りになっている。

先進国が途上国への融資や助成金の割合を増やす一方で、利用可能な適応資金と必要な適応資金のギャップは年間3590億ドルに上る可能性があると、国連環境計画(UNEP)は昨年11月の報告書で概算した。

 

アゼルバイジャンで昨年開催された国連気候変動枠組み条約第29回締約国会議(COP29)では資金交渉の際、ナウルを含む島嶼(とうしょ)国連合の交渉担当者が立ち去る場面もあった。

最終的な合意では、先進国が気候変動対策費として少なくとも年3000億ドルの支援を行うことが合意されたが、求められていた年間1兆ドルをはるかに下回る水準にとどまった。

適切な取り組みには「相当な財源が必要だ。これは現在進行中の闘いだ」と、アデアン氏は昨年9月にニューヨークでの国連総会で訴えた。

米航空宇宙局(NASA)の海面変動科学チームによると、ナウルは今後数十年間に水害が大幅に悪化する見通し。

水位が少なくとも0.5メートル以上上昇した洪水の日数は、1975-84年は計8日だったのに対し、2012-21年は146日だったことがNASAのデータから明らかになっている。

ジャマイカやフィジーを含む39カ国から成る島嶼国グループにとって、沿岸部の洪水で生じる年間コストはすでに16億ドルを超えている。

オーストラリアのシンクタンク、ローウィー研究所によると、08-22年に気候変動への対応を主眼とする開発資金としてナウルが受け取ったのは6400万ドルだった。

原題:Selling Passports for $140,500 Helps Nauru Fund Climate Defenses(抜粋)

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