2024年を振り返る~「お金」を意識した1年、メリハリ消費で見えた温度差

2025年もすでに1カ月半が過ぎ、正月やバレンタイン商戦も終わった。ここであらためて新年度を迎えるにあたり、2025年の消費動向について考察したい。

まず、2024年を振り返ると、京都・清水寺で発表された「今年の漢字」が「金」だったように、消費行動においても「お金」を強く意識した1年であった。新紙幣の発行や新NISAの開始をきっかけに投資を始める人が増え、日経平均株価は4万円を超える局面が何度も見られた。これにより、消費者の投資意欲が高まり、資産形成への関心が一段と強まった。

一方で、物価高が家計の負担を押し上げ、「メリハリ消費」の傾向が一層顕著になった。2023年5月に新型コロナウイルス感染症が5類へ移行したことで、外出を伴う消費行動は平常化し、2024年は本格的な消費回復が期待された。しかし、実際には消費領域によって温度差があった。国内旅行やレジャー消費は回復基調を示したが、円安によるコスト増の影響で海外旅行は低迷した。可処分所得の伸び悩みを背景に、消費者はコストパフォーマンスを重視し、より慎重に消費対象を選ぶ傾向が強まった。

存在感を増す「推し活」消費~メリハリ消費・コスパ意識の土台に

近年、消費における「推し活」(推し消費)の存在感が急速に増している。この「推し活」の広がりは「メリハリ消費」やコスパ意識の高まりにも影響を与えていると考えられる。

推し消費は、イベントへの参加、グッズ購入、飲食サービスの利用など多岐にわたり、他の消費支出との区別が難しい。そのため、従来の統計では正確な規模を把握しにくいが、SNSなどを見ると、消費者が価値を感じたものには他の支出を抑えてでもお金をかけ、高額な出費もいとわないような傾向がみられる。また、推し消費が広がる背景には、単に好きなものにお金を使うだけでなく、SNS上での自己表現やファン同士のコミュニティ形成につながる側面もある。

近年、消費社会の成熟化に伴い、安価で高品質な商品・サービスが広く普及している。無料のアプリやネットサービスの拡充も相まって、こだわりの少ない消費は低予算でコストパフォーマンスよく済ませられる環境が整っている。このような中で、推し消費のように「自分の楽しみにどのような価値を与えるか」「その消費を通じて理想の自分をどう表現するか」といった視点を持つ消費行動(イミ消費やエシカル消費を含む)が、消費行動においてますます重要な要素になっている。

つまり、可処分所得の増減にかかわらず、こだわりの少ない消費にはコストパフォーマンスが求められ、一方でこだわりの強い消費には積極的に支出するという「メリハリ消費」の傾向が強まっている。その結果、可処分所得が伸び悩んだ2024年は、消費対象をより慎重に選び抜いた1年だったと言える。

2025年は「節約一服」の年に~実質可処分所得の増加で後半から消費が徐々に活発化

2025年は、2024年の流れを引き継ぎつつ、新たな消費行動が広がる1年となりそうだ。

昨年に続き、高い賃上げが見込まれ、2025年後半には賃金の上昇率が物価上昇率を安定的に上回ると予測されている。そうなれば、実質的に使えるお金が増え、投資行動のさらなる拡大が期待される。また、株高の恩恵を直接受けていない層にとっても、その心理的影響は大きいだろう。株式市場の好調が消費マインドを刺激し、「消費を控える」から「選びながら消費する」へと意識がシフトしていく可能性もある。

その結果、従来のメリハリ消費において「節約」の比重は徐々に和らぎ、特に年後半から消費全体が活発化していくことが予想される。

また、「推し活」をはじめとする「こだわり消費」の定着により、メリハリ消費やコスパ意識が消費行動の基盤として強まりつつあり、これも今後の消費回復を後押しする要因となるだろう。

「推し活」に加えて注目したい消費~循環型消費、AI、「選ばなくてすむ」消費

一方で、モノを大切にする価値観は根強く、リユースやリサイクルといった中古市場は拡大を続けている。節約志向を持ちながらも「モノの循環」を意識する生活スタイルが広がり、「この消費が社会課題の解決につながるか」を考えるエシカル消費が広がっている。

また、AI技術の進化が消費行動に与える影響も大きい。SNSの広告やネットショッピング、動画・音楽配信サービスのおすすめ機能は、従来の購入履歴や閲覧履歴に加え、個人の嗜好や行動パターン、購入タイミングなどをより高度に活用するようになっている。2025年には、こうしたパーソナライズの精度がさらに向上し、消費者は「選ばなくてすむ」「任せる」消費スタイルをより取り入れやすくなっていくだろう。

情報過多で選択に迷う時代から、AIが最適な選択を提示する時代へとシフトする中で、消費スタイルも変化している。2025年の消費動向は、2024年の「お金を意識する」流れを踏まえながら、より自由度の高い消費へと移行していくと考えられる。

(※情報提供、記事執筆:ニッセイ基礎研究所 生活研究部 上席研究員 久我 尚子)