(ブルームバーグ):石破茂首相は7日に行われるトランプ米大統領との初会談で、関税による経済的な悪影響を回避し、米国との安全保障面での同盟関係を再確認することを目指し、慎重な対応をとることになるだろう。
日本にとって、主張しないことと、主張することはどちらも大切かもしれない。日本政府当局者は、トランプ氏が大統領に復帰して以降、カナダやデンマークといった同盟国に対し関税や望まれていない領土購入構想で圧力をかけるのを目にしている。首相として経験が浅い石破氏は、トランプ氏との初会談の際にこのような緊張状態を生まないようにするという課題に直面している。
石破首相は6日夕、今回の首脳会談で「初対面だから、お互いの信頼関係というものの確立のために努力をしたい」と語った。その上で、経済や安全保障の問題で協力し、地域や世界全体の発展と平和のために力を合わせていくことを確認したいとの考えを示した。訪米に先立ち、官邸で記者団に語った。

早稲田大学の中林美恵子教授は、日米首脳会談で「日本独自のアメリカとの付き合い方がある意味定まっていく」と指摘。その上で、米関税政策について「本当に何も触れないのか、あるいはトランプ氏の方から何か触れてくるのか、それに対して日本がどういうふうに応酬したり対応したりするのか」が注目点になると述べた。
日本は米国の最も親密な同盟国の一つであり、貿易相手国でもあるが、カナダもそうだ。
トランプ氏は大統領就任以後、日本の対米貿易黒字や円安、米自動車市場における日本メーカーのシェアの高さなど、かねてから抱いている不満を口にしていないが、それが遠のいたわけではない。
トランプ氏は昨年8月、ブルームバーグ・ビジネスウィークとのインタビューで、日米の貿易関係について、「日本は米国に対して横暴だった」と述べ、「今もそうだ」との認識を示していた。
日米首脳会談に向けた日本政府の戦略は、おそらく第1次トランプ政権からヒントを得たものになるだろう。当時の安倍晋三首相は、米国での日本企業による投資と雇用創出を強調した。
日本は過去5年間、外国による対米直接投資額で首位を維持している。ソフトバンクグループの孫正義会長は昨年12月、トランプ大統領との会見で米国に100億ドル(約15兆円)を投資する計画を明らかにしたが、好感度のさらなる向上に役立ったかもしれない。
赤沢亮正経済再生担当相は7日の閣議後会見で、日本の対米投資には拡大余地があると述べ、人工知能(AI)を含む先端技術分野などで経済協力を拡大・深化させていきたいと述べた。「世界で一番米国民の雇用の創出に協力している国は5年連続日本であることは当然言える」と指摘し、米国にとっても日本が「ベストフレンド」だと確認することは重要だと語った。

他の同盟国と同様に、日本は新たなディール(取引)を約束することでもトランプ大統領の歓心を得ようとしている。石破首相は最近、首脳会談ではエネルギーの安定供給を要請する考えを示した。日本経済新聞は先週、日本が米国産シェールガスの輸入拡大を申し出る可能性があると報じた。
トランプ氏はアラスカでの石油・ガス開発を促す大統領令に署名しており、日本との地理的な近さなどから、三井物産の重田哲也最高財務責任者(CFO)は「検討のテーブルには乗っていく」との見方を示した。
日本製鉄による米鉄鋼大手USスチール買収計画が議題となる可能性は低い。この動きはバイデン前大統領によって阻止された。トランプ氏も買収に反対し、日米関係は一時緊張。同案件で日本政府がさらに強く出るつもりはなさそうだ。ただ、トランプ氏は6日、USスチールのデービッド・ブリット最高経営責任者(CEO)と会談しており、さまざまな臆測を呼んでいる。
日米首脳会談について、日本製鉄の森高弘副会長は6日、USスチール買収に向けて「今後道が開けるような形で、一つのきっかけになれば」と話した。
日本では、石破氏がトランプ氏とどれだけうまく付き合えるかに注目が集まっている。これは1期目のトランプ大統領と安倍首相との蜜月が、良好な日米関係につながったという日本国民の見方を映している。トランプ氏は昨年12月にフロリダ州の私邸を訪問した安倍元首相の妻、昭恵氏を今でも懇意にしている。
大統領就任式前にトランプ氏との会談が実現しなかった石破氏にとって、今回の首脳会談は指導力を試す場となる。

石破氏の目標の一つは、日米同盟が依然として強固だと国際社会に示すことだ。トランプ氏の大統領復帰以降、外相や防衛相の会談では同盟の強化などに取り組むことが再確認されている。
石破首相はまた、日本の領土で中国が領有権を主張する尖閣諸島について、日米安保条約の適用対象であることをトランプ大統領に確認する意向とみられる。この点については1月の日米防衛相の電話会談で確認した。
日本国内の米軍基地の維持費をどれだけ日本が負担するかという問題も議題になる可能性がある。在日米軍は約5万人を擁し、海外駐留の米軍兵力としては最大の規模となる。トランプ氏は過去に日本が駐留費負担を増やすべきだと主張。26年に新たな取り決めに関する交渉開始が予定されている。
トランプ氏は同盟国に自国の防衛費増額を強く求めている。日本政府当局者は、防衛費を対国内総生産(GDP)比で倍増させる計画や、米国から防衛装備品の購入を増やす取り組みについて説明するとしている。
日本としては、日米韓3カ国の防衛協力など、米国と共に地域の防衛体制強化を継続したい考えだ。トランプ氏がこうした取り組みを継続する意向かどうか、今のところ明確な方針は示していない。
米国とカナダの関係を揺るがす関税措置のような大きな混乱が日米間に生じることはほとんどないだろう。
日本国内では、トランプ氏が大統領に復帰以後、日本について言及がほとんどないことを好材料と受け止められている。日本が標的リストに入っていないと考えられるためで、この状態を維持することが石破首相の仕事となる。
ジャパン・フォーサイトの創設者、トビアス・ハリス氏は、「石破氏にとって、首脳会談を成功させるには、つまらない会談にすることだ」と語った。
原題:Japan’s Ishiba to Tread Cautiously in First Meeting With Trump(抜粋)
(赤沢再生相の発言などを追加し、更新します)
--取材協力:吉田昂、照喜納明美、広川高史.もっと読むにはこちら bloomberg.co.jp
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