政府系ファンドは世界で最も強力、かつ秘密の多い投資家の一角であり、資産は13兆ドル(約1982兆円)超に上ると推定されている。さまざまな国の政府機関によって運営されている同ファンドは、金融界で最も多額の小切手を切ることで知られており、時には巨大なスキャンダルの温床にもなっている。

トランプ米大統領も今後1年以内の連邦政府系ファンド創設を望んでいる。このファンドが中国系動画投稿アプリ「TikTok(ティックトック)」の米事業買収に関与する可能性もある。

政府系ファンドとは

政府系ファンドはかなり漠然とした存在だ。最も広い意味では、政府機関によって運営、または所有されているあらゆる投資ビークルやファンドを含む。こうしたファンドを追跡調査するコンサルティング会社、グローバルSWFのマネジングディレクター、ディエゴ・ロペス氏によると、米国にはすでに20を超える政府系ファンドがあり、多くは州レベルで運営されている。アラスカ永久基金は昨年12月時点で796億ドル相当を保有している。

トランプ米大統領

政府系ファンドの仕組みとは

一般的に、政府系ファンドは3つのカテゴリーに分かれる。一つは現金から始めるもので、もう一つは資産から始める。そして投資目標から始めるものがある。

最初のタイプは、資金の大きなプールとして設立され、さまざまな資産に投資する。その狙いはリターンを高めることであり、準備金のほか、万一の事態に備えた「レイニー・デー」用の資金を蓄えることが多い。

二つ目は持ち株会社に近いもので、さまざまな政府保有資産をここに移管する。こうした資産の持ち分を売却したり、担保にして融資を受けたりした後、調達資金で再投資を行ったり、新たな資産を購入したりすることができる。

三つ目は、インフラ整備などプロジェクト向けに外部からの投資呼び込みを目的とした媒体を設けるアプローチで、戦略的投資ファンドとしても知られる。これは比較的新しい手法で、外部投資家の参入が難しい市場で有効だ。

政府系ファンドを持つ国とは

グローバルSWFのロペス氏によると、約86カ国に206の政府系ファンドが存在する。

世界最大級の政府系ファンドはノルウェー中央銀行投資管理部門(NBIM)だ。1兆7400億ドル相当の資産を持つ同ファンドは、石油・ガス収入を原資とし、典型的なレイニー・デー・ファンドとなる。

シンガポール政府系テマセク・ホールディングスは、先ほど言及した2番目のタイプだ(ただ、政府系ファンドに分類されることには反対している)。1974年に港湾や郵便局、他の典型的な政府保有資産を集めてスタートしたテマセクは昨年3月末現在、2880億ドル相当のネットポートフォリオ価値を持つ多様な資産の集合体となった。

さらに、海外からの投資促進・管理を担うインドネシア投資庁は、第3のタイプの例となる。マレーシアの1MDBもこの種類に入るが、債券発行で調達した多額の資金が不正流用されるスキャンダルも起きた。

トランプ氏はなぜ政府系ファンドを創設したいのか

それは分からない。トランプ大統領がどのようなタイプのファンドを念頭に置いているかが不明だからだ。

トランプ氏が昨年9月、ニューヨークのエコノミック・クラブで政府系ファンド設立構想を披露した際には、関税収入をファンドに振り向けるとしていた。今月3日には、政府系ファンドの創設に向けた大統領令に署名し、米国は近く「最大級の基金を持つことになる」と述べた。こうした発言は、レイニー・デー・ファンドを示唆している。多くの国々は新型コロナウイルス感染拡大時に、緊急対策費用を賄うためにこうした資金を活用した。

しかし、ベッセント財務長官は3日、トランプ政権が第2のタイプのファンドを設立する可能性を示唆。「米国民のために米国のバランスシートの資産側を資金化する」と述べた。

ファンドが第3のタイプになる可能性もなお示唆されている。トランプ大統領はファンドの資金調達前に投資を期待している対象セクター、さらには企業の一部まで具体的に列挙した。当初は製造業や国防、医療研究に投資する可能性があると指摘。その後、TikTok買収への関与に使うかもしれないとも述べた。さらに、大統領のアドバイザーによれば、外部資金を集める手段として、米国際開発金融公社を活用することもあり得る。

今回の大統領令は、ベッセント長官とラトニック商務長官候補に対し、90日以内に計画を策定した上で、1年以内にファンドを設立するよう指示している。

政府系ファンドのパフォーマンスはどうか

それは「パフォーマンス 」の定義によって変わる。リターンに関しては、ニュージーランドのスーパーファンドが世界最高水準にあり、2024年のリターンはプラス16%だった。一方、ノルウェーのNBIMはプラス13%となった。昨年23%上昇した米S&P500種株価指数に単に連動させる運用アプローチに比べると、いずれも見劣りする形になる。

しかし、貯蓄ファンドである政府系ファンドは、安定性を優先することが多い。ボラティリティーを抑え、インフレ率を上回る利益を上げることは、直線的な成長よりも重要なのだ。

また、目標が具体的でない場合、例えばサウジアラビアの政府系ファンド、パブリック・インベストメント・ファンド(PIF)の任務の一部である「サウジ経済の発展と多様化」を可能にすることができれば、国のトップ(サウジの場合は事実上の最高権力者ムハンマド皇太子)が成功と判断すればそうなることになる。

最も成功しているファンドに共通するのは、政治家が口出ししないことだとの見方で専門家はおおむね一致する。

グローバルSWFのロペス氏は「オーストラリアやニュージーランドのように、世界で最も成功しているファンドでは、政治家から独立したいわゆるアームズ・レングスの抑制と均衡が働いている」と話す。

米にとって政府系ファンドは理にかなうのか

専門家によれば、それはトランプ大統領が政府系ファンドを設立することで何を達成しようとしているのかによるという。

ケース・ウェスタン・リザーブ大学法学部のポール・ローズ学部長は「政府系ファンドは特定の問題に取り組むために設計されており、ファンドのガバナンスや投資の性質は全てその特定の問題解決に向けられる」と指摘。こうしたファンドの研究や助言にキャリアの多くをささげてきたローズ教授によれば、トランプ大統領が第3のタイプ、つまり戦略的投資ファンドに傾きつつあることが大半の兆候で示されている。

一方、ロペス氏は、米国のファンドがTikTok買収資金を差し迫った取引期限までに調達できるのか、あるいはそれが適切な投資手段になるのか懐疑的な見方を示す。「連邦政府の資産を見ると、相対的にはそれほど多くはない」と指摘。また、例えば全米鉄道旅客公社(アムトラック)や米郵政公社(USPS)の資産でファンドを組んでも、「恐らく多額のTikTok持ち分の取得にはあまり適さない」とも述べた。

リスクは何か

米司法省はマレーシアの1MDBスキャンダルを「これまでで最大規模のクレプトクラシー(泥棒政治)事案」と位置付けた。その他にも、アンゴラやリビア、赤道ギニアの政府系ファンドで不正の例が見つかっている。

ファンドの規模や不正を働く機会、多くの政府系ファンドに見られる監視の欠如により、同ファンドは本質的にリスクを伴う手段となっている。

ローズ教授は「財務面では投資判断の誤りやファンドの低調なリターン、腐敗による収益の喪失がリスクとなる」と警鐘を鳴らし、「政治面ではファンドが正当性を失うリスクがある。カウンターパーティーとの間でだけではなく、米国民に対しても失う恐れがある」と述べた。

原題:Trump Wants a Sovereign Wealth Fund. What Are They?: QuickTake(抜粋)

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