中国への関税適用

近々、中国に対してもトランプ関税の適用が心配される。中国に進出した現地企業の中には、中国で製造して米国に輸出する企業もあるだろう。日本の中国現地企業の売上は、「海外事業活動基本調査」によれば、54.3兆円(香港を含めると61.4兆円)と破格に大きい。業種は製造業全般に渡っている。しかし、中国の生産物の中から米国輸出に回している割合でみると、それほど大きくないようだ。経済産業省「海外現地法人四半期調査」(2024年7-9月)では、中国現地企業の第三国輸出の割合は10%とかなり低い。かつて、中国を生産基地として米国輸出をしてきた企業は、中国からベトナムなどASEANに生産移管が進められている。ASEANの第三国輸出の割合は24%とより高い。もしも、トランプ関税が、メキシコなど3か国から全輸入相手国に広がれば、こちらも打撃を被るだろう。

トランプ関税が中国現地企業に及ぼす影響は、第三国輸出への打撃に止まらない。中国経済がより減速すれば、現地生産・現地販売の部分が打撃を受けるだろう。そうした意味では、トランプ関税の打撃を日本企業は完全に免れられる訳ではない。

日本への影響

ベッセント財務長官は、公聴会でトランプ関税はインフレ再燃を引き起こす材料にはならないと強調している。理屈は、トランプ関税が全輸入品に10%の率でかかったとしても、ドルが4%で上昇すれば、消費者への価格転嫁は6%で済むというものだ。

この説明は、私たち日本人には「あれ?」と思わせる。ドル高が4%進めば、日本の輸入価格は4%高くなる。米国は4%分だけインフレにならないが、日本にはそのインフレ圧力がしわ寄せされるではないか。ドル上昇は、米国のインフレ圧力を日本に分散させる間接的な効果を持つ。

もちろん、ベッセント財務長官の言う理屈通りにドル高が4%進むというシナリオは確定的なものではない。しかし、時間をかけて米国経済へのインフレ圧力が高まると、それは米長期金利を上昇させる。やはり、米金利上昇=ドル高・円安の流れは、じわじわと進むという見方は成り立つと思う。

(※情報提供、記事執筆:第一生命経済研究所 経済調査部 首席エコノミスト 熊野 英生)