就職氷河期世代

2024年時点で、40~54歳の年齢層だった人には、就職氷河期世代が当たる。就職氷河期とは、1993年から2004年頃に入社した人である(2024年時点の年齢は43~54歳)。ちょうどバブル崩壊や金融危機に重なって就職活動をしたタイミングだ。日本的雇用とされる新卒一括採用では、就職時の雇用環境が悪ければ、そこが人生の分かれ道になって、生涯年収が変わってくるという弊害が生じてしまう。こうして2019~2024年の年齢別の給与状況を比較してみると、就職後も氷河期世代はあまり厚遇されているようには見えない。氷河期世代の前には、採用人数の多いバブル世代がいて、彼らの人件費が嵩んでしまうために、そこで生じた人件費の削減圧力が後に続く氷河期世代にもしわ寄せをもたらしているのだろう。

今後の課題

世の中では、賃上げを礼賛する声が大きく、雇用者は「皆、ハッピーだ」というイメージが強くもたれている。しかし、筆者の肌感覚では、こうした賃上げ効果は世代間で極めて大きなギャップがあるように感じられる。中高年には「自分には関係ありません」と答える人は相当に多い。企業の人件費削減の圧力は、非常に見えにくいかたちで、現在も中高年雇用者には継続しているように思える。

そうした議論の中で、氷河期世代は昔の世代に比べて、65歳まで長く働ける環境が整ってきているので、世代間比較をしてみてそれほど損をしている訳ではない、という反論もある。この考え方はどうだろうか。確かに、高年齢者雇用安定法は、2004年以降何度も改正されて継続雇用を促してきた。2025年4月にはさらに強化される。

この制度改正は、60歳以降が継続的に働ける環境を整備してきた。しかし、政府は、継続雇用される人の給与面にはあまり関心を払っていない。筆者がみるところ、継続雇用をする代わりに、高齢期の給与カットは仕方がないものだと政府は目を瞑っているのではないかと思う。しかし、給与水準がカットされて、勤労意欲を著しく失ってしまう人が多いことをどうみるべきなのだろうか。自ずとその人たちは生産性を下げてしまう。生産性の低下は、すべてそうした人たちだけの責任だとは言えまい。政府の要請だからといって、仕方なく60歳以上の雇用者を抱える企業がいることは誠に不幸なことではないか。必ずしも氷河期世代は、高齢期になっても働けるからハッピーとは言いにくい。

(※情報提供、記事執筆:第一生命経済研究所 経済調査部 首席エコノミスト 熊野 英生)