(ブルームバーグ):米国が中国の技術発展を阻止する措置を講じる中でも中国のスタートアップ、DeepSeek(ディープシーク)が高性能人工知能(AI)モデル開発を成し遂げたことは、米国の輸出規制の有効性に疑問を投げ掛けている。
ディープシークは最近発表した「R1」モデルについて、競合他社よりはるかに低コストで開発したと主張している。このため先端ハードウエアへの巨額投資が必要かどうか疑問視する声が投資家の間で高まり、27日の米株式市場でハイテク株は急落した。また、中国の最先端AI開発を阻止する戦略を巡り米政界で議論を巻き起こしている。米政策当局者は中国の最先端AI開発を国家安全保障上のリスクと見なしている。
米国は2022年10月にエヌビディア製最先端チップの対中輸出規制を導入。それ以来毎年、規制を強化してきた。こうした動きを受け、エヌビディアは中国市場向けに新たな設計のチップを開発。ディープシークがR1の構築に使用した可能性が高いチップもその一つだ。
ディープシークは米政府が23年10月まで中国への輸出を許可していたエヌビディアの「型落ち」のチップ「H800」を使用して、オープンAIの最高レベルの製品と匹敵すると見受けられる性能のモデルを構築したと主張している。エヌビディアは27日、ディープシークの成果を「AI技術の優れた進歩」だとし、「広く利用可能なモデルと、輸出規制に完全に準拠したコンピューティング」を企業がいかに活用できるかを示す良い例だと指摘した。
インテルの前最高経営責任者(CEO)、パット・ゲルシンガー氏は「輸出規制により利用可能な資源が限られていたため、中国のエンジニアは創造性を発揮する必要があった。そして、彼らはそれを成し遂げた」とし、「エンジニアリングの本質は制約だ」と語った。
複数の米議員は27日、トランプ新政権に対し、AI分野での中国のさらなる進歩を阻止するため輸出規制を強化するよう求めた。
ディープシークの画期的技術は、トランプ政権に難題を突きつける。トランプ氏のチームは、前政権が導入した世界規模の先端半導体規制を維持するかどうかだけでなく、エヌビディアのH20などを規制対象に含めるかどうかの決定も迫られる。
トランプ氏はこの日、R1のリリースは「わが国の産業にとって、勝つためにはレーザー光線のように競争への集中が必要という警鐘となるはずだ」と発言。R1は業界全体のより低コストでのAIの進歩を可能にする「前向きな展開」と称賛した。
ディープシークは同モデルをオープンソースで公開しており、米企業はその革新的技術のほか、はるかに上回るコンピューティング能力を利用できる。
エヌビディアのジェンスン・フアンCEOは、トランプ氏が半導体規制を緩和し、業界に恩恵をもたらすとの見通しを示している。
米戦略国際問題研究所(CSIS)ワドワニAIセンターのディレクター、グレゴリー・アレン氏はディープシークがR1を構築できたという事実は「22年10月の輸出規制の失敗の遅行効果」を示しているが、間もなく「23年10月の輸出規制の成功を目の当たりにするだろう」と指摘する。
このモデルを拡張し、継続的に開発していくには膨大なコンピューティング能力が必要だが、23年10月以降、ディープシークは訓練プロセスを支えてきたエヌビディアのチップを購入できなくなったと同氏は説明した。
原題:DeepSeek’s AI Model Tests Limits of US Curbs on Nvidia Chips (1)(抜粋)
--取材協力:Ian King、Daniel Flatley.
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