経団連の十倉雅和会長と日本最大の労働組合の全国組織である連合の芳野友子会長が22日都内で懇談し、2025年の春闘が事実上幕を開けた。両者は賃上げの「モメンタム(勢い)定着」に向けて取り組むことを確認。労使が協調して賃金の底上げを図る姿勢を示した。

懇談後、芳野会長は記者団に対し、「労使で考え方は同じ方向を向いている」と発言。賃上げ実現に向け価格転嫁や適正価格の推進、健全な労使関係の重要性を共有したと述べた。一方、経団連の十倉会長は、昨年までの賃上げは「コストプッシュでやむを得ずやったところもたくさんある」と振り返り、今年はデマンドプル(需要けん引)型の賃金と物価の好循環が確信できる年にしたいと意気込みを語った。

連合は今春闘で、基本給を引き上げるベースアップ(ベア)相当分を3%以上、年齢や勤務年数などに応じた定期昇給分を含めて昨年と同水準の「5%以上」の賃上げを要求。中小労組では企業規模による格差是正分を加えて6%以上を目指す。

芳野会長は、日本経済の底上げのために中小企業、地方経済の隅々に賃上げが波及することが重要だと強調した。歴史的高水準だった昨年以上の結果を出すには、労務費を含む価格転嫁や適正取引を通じて雇用労働者の約7割を占める中小企業の底上げが鍵となる。

経団連は21日公表した「経営労働政策特別委員会報告」で、「分厚い中間層の形成と構造的な賃金引き上げの実現」に貢献することが経団連・企業の社会的責務と言明。その上で、賃上げの力強いモメンタムを社会全体に定着させるには、ベアを念頭に中小企業の構造的な賃上げが不可欠だと指摘した。

中小企業が賃上げの原資を確保するため、政府は価格転嫁や適正取引の推進へ環境整備に取り組んでいる。石破茂首相は16日官邸で開いた中小企業経営者との車座対話で、適切に価格転嫁できない場合は「それを正すような仕組み」が必要だと指摘。下請法改正案を「なるべく早く国会に提出し、採決したい」と語った。

格差是正でズレも

経団連は21日の同報告書で、連合の問題意識や認識の多くは共通していると記す一方、中小組合の要求は「極めて高い水準と言わざるを得ない」とも評価した。建設的で健全な労使関係・労使交渉の促進に資する水準である必要があるとの考えを示している。

これに対し連合は22日公表した同報告書に関する見解で「遺憾」を表明。大手と中小の賃金水準には差があり、人手不足の中で「中小企業の賃金格差の是正は待ったなしだ」と指摘。経団連と会員企業は「取引先に遠慮することなく積極的な賃上げをするよう背中を押す役割を果たすべきだ」と主張した。政府には、物価や為替レートの安定など、適切なマクロの経済社会運営と賃上げに向けた環境整備を求めた。

24年春闘の好調な結果を反映し、基本給に相当する所定内給与が11月に32年ぶりの高い伸びとなるなど、所得環境に改善が見られている。一方、物価変動を反映させた実質賃金は物価高の影響でプラス圏に定着するには至っていない。

東京商工リサーチによると、24年の企業倒産(負債総額1000万円以上)は11年ぶりに1万件を超えた。物価上昇に歯止めがかからなかったほか、人手不足や最低賃金の引き上げなどで人件費も上昇し、幅広い分野でコストアップに見舞われ、「物価高」や「人手不足」関連倒産が高水準だったという。経営体力が相対的に弱い中小企業にとって賃上げは死活問題となりかねない。

一方、大手企業からは昨年に続き高水準の賃上げ計画が相次ぎ発表されている。明治安田生命保険は25年度、内勤職員・営業職員合わせた社員約4万7000人を対象に平均5%の賃上げを行う方針だ。ファーストリテイリングは新入社員の初任給を33万円に引き上げ、年収ベースで約10%の賃上げを予定している。

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