トランプ米大統領が掲げる拡大的かつ成長促進的な政策課題の潜在的影響に懸念が広がっていたものの、米国債市場は政権発足後に順調な滑り出しを見せた。

トランプ氏のホワイトハウス返り咲き後で初の取引日となった21日、米国債相場は上昇し、利回りは年初来最低の水準に押し下げられた。一方で、株式相場は上昇し、ドルは足場を固めた。トランプ大統領が2期目スタートに当たり移民や多様性、その他の問題に関する一連の大統領令を発表したが、対中関税を就任初日には打ち出さず、メキシコとカナダからの輸入品に対し2月1日までに関税を賦課することのみを検討する意向を示した。このため、金融市場では楽観論が広がった。

トランプ政権が「米国第一主義」の政策を徐々に打ち出す中で、原油価格が下落したこともインフレ懸念の緩和につながった。

昨年11月の米大統領選挙でトランプ氏が返り咲きを決めて以来、新政権の関税や減税策が米国の財政を悪化させ、インフレを再燃させるとの懸念から、米国債利回りは数年来の高水準に達していた。しかし21日の取引終了時には、30年債利回りは前日比6ベーシスポイント(bp、1bp=0.01%)低下し4.80%と、5%の大台をかなり下回る水準となった。

確かに、米国の債務と財政赤字の持続可能性や、インフレ圧力を高め世界の金融市場に波及しかねない貿易戦争の潜在性を巡って懸念すべき理由はまだ十二分にある。ゴールドマン・サックスやソシエテ・ジェネラルなどウォール街の金融機関は、トランプ氏が言及した計画について当面、深読みしないよう警告を発している。

ミシュラー・ファイナンシャル・グループのマネジングディレクターを務めるグレン・カペロ氏は「トランプ氏はトランプ氏らしく、時には市場を動揺させたりするような発言もあろう。しかし、結局のところ、トランプ氏はビジネスマンであり、低金利を理解している。このため私は、金利は上昇ではなく低下すると確信している」と話した。

カペロ氏はトランプ氏が20日に関税発動のシグナルを徐々に発信し始めたことと、財務長官にスコット・ベッセント氏を起用したことは、いずれも利回り低下を継続的に支える好材料だと指摘した。

利回りの動きは為替市場にも波及した。トランプ氏が2月1日までにメキシコとカナダに対し最大25%の関税を賦課する計画だと述べたのを受けて、ブルームバーグ・ドル・スポット指数は一時0.7%上昇したが、その後はほぼ変わらずの水準に上げ幅を縮小した。

ゴールドマンの米国政治担当チーフエコノミスト、アレック・フィリップス氏はトランプ大統領が表明したカナダとメキシコへの関税方針について、25%関税は確定には程遠いと指摘。「関税について公約通りに就任式当日に実行しなかったことこそ、今後の見通しに関する一番良いシグナルだと考える」と述べた。

ソシエテ・ジェネラルのチーフ為替ストラテジスト、キット・ジャックス氏は、ドルは現在の高値圏で一進一退を繰り返すと述べ、現水準からさほど上昇することはないと予想。「関税の脅威は示され、弱められ、再確認された。微妙なニュアンスが出てくるのは間違いない」とリポートに記した。

問題は、米国債市場でいつまで安堵(あんど)の波が続くかだ。米連邦公開市場委員会(FOMC)は来週、政策会合を開くが、トレーダーの間では当局が金利を2025年後半まで据え置くと予想されている。

ハーバード大学のケネス・ロゴフ教授は、今後5年から7年の間に「インフレが高進する」可能性が高いとみている。しかしそれまでは、当局が新たな経済的現実に対応する中で、利下げも利上げも同程度の可能性があるとの見方を示した。

原題:On Day One, Trump Appeases Bond Traders and Pushes Down Rates(抜粋)

--取材協力:Ruth Carson、Masaki Kondo、Carter Johnson.

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