無償化されていない「隠れ教育費」の存在

冒頭で述べたように、与野党協議の結果、国による公立・私立高校の教育無償化が導入されることになれば、居住地域や世帯年収にかかわらず、高校における教育の機会均等が保障されることになる。しかし、これで小学校から高校まで「完全な」教育無償化が実現されるのかといえば、実はそうではない。無償化の対象に入っていない「隠れ教育費」が存在するからである。

「隠れ教育費」とは、授業料や教科書代以外にかかる費用のことである。これらの費用は、授業料や教科書代が無償であるにもかかわらず、保護者が負担しなければならないため「隠れ教育費」と呼ばれている。これらの費用は、学校生活を送る上で必要不可欠なものであるが、積み重なると保護者にとって大きな負担となることが多い。

具体的に「隠れ教育費」の内容についてみてみよう。たとえば、大半の小学生は登下校時にランドセルを背負っているが、昨今のランドセルは高価なものが多い。また、音楽の授業で使用する鍵盤ハーモニカやリコーダーなどの楽器も購入が必要である。体育の授業や運動会などでは、体操服の購入が求められる。

修学旅行費や遠足費も重要な「隠れ教育費」の一部だ。学校行事は子どもたちにとって貴重な経験だが、その費用は保護者が負担する必要がある。交通費・宿泊費・食費などが含まれ、特に修学旅行は高額になることが多い。加えて、授業で使う文房具や学用品も必要となる。ノート・鉛筆・消しゴムなどの基本的な文房具に加え、図工や家庭科の授業で使用する道具なども購入しなければならない。これらは消耗品であり、定期的に補充が必要となる。

中学生になると、制服が指定されている学校が多く、その購入費用がかかる。しかも制服は体操服と同様に、子どもの成長に伴って買い替えが必要になるため、継続的な費用となる。また、季節ごとに異なる制服が必要な学校もあり、その分の費用も考慮しなければならない。その他、クラブ・部活動に入れば、部費の支払いはもとより、スポーツ系であればラケットやグローブなど、文化系であれば楽器や絵具など、学校が貸与できない道具については保護者が用意せざるを得ない。クラブ・部活動は、必要に応じた費用を家庭で負担することを前提に成立している側面が否めないのである。

文部科学省の調査によると、「隠れ教育費」である学校教育費は、義務教育において、公立小学校で年間約8万円、私立小学校で年間約105万円、公立中学校で年間約15万円、私立中学校で年間約112万円となっている。高校でも同様の学校教育費が必要とされており、公立高校(全日制)で年間約35万円、私立高校(全日制)で年間約76万円である。

「隠れ教育費」は、学校教育において必要な費用であるにもかかわらず、公立・私立を問わず、長年にわたり家庭が負担しており、結果として保護者の経済状況に左右される恐れがある。その意味で、本来無償であるはずの義務教育も、今回与野党協議が行われている高校の無償化についても、こうした「隠れ教育費」を解決しない限り、「教育無償化が実現した」とはいえないのではないだろうか。