米国の雇用統計の発表を控えて、トレーダーは為替相場の急激な変動や政府・日本銀行による円買い介入リスクへの警戒を高めている。

円相場は対ドルで160円台に近づいており、雇用統計が好調ならその心理的節目に達する可能性があるとストラテジストはみている。160円台を付ければ、1986年以来の安値161円95銭が視野に入る。

8日の外国為替市場では一時158円55銭まで円安が進み、日本の通貨当局が最後に円買い介入を行った昨年7月以来の安値を付けた。日本時間10日午前は158円台前半で推移している。

マネックス証券の債券・為替トレーダー、相馬勉氏は雇用統計が強ければ「ドルを買わざるを得ない」と指摘。160円が近づけば円買い介入が実施される可能性はあるが、口頭での警告が先だろうと予想する。

加藤勝信財務相は7日、為替相場に「一方的、急激な動向が見られる」とし、「行き過ぎた動きに対しては適切な対応をとる」と市場をけん制した。日本の通貨当局は2024年に4回の円買い・ドル売り介入を行い、計15兆円以上を投じた。

 

日米の金利格差を背景に、円は4年連続でドルに対して下落。米連邦準備制度理事会(FRB)が利下げペースの鈍化を示唆し、日銀による追加利上げのタイミングが不透明なことから、円に対する売り圧力が強まりやすい。

8日に公表された昨年12月の米連邦公開市場委員会(FOMC)議事要旨では、インフレリスクが高止まりする中で、多くの参加者が利下げペースを減速させる必要性を認識していることが示された。一方、日銀の植田和男総裁は12月の金融政策決定会合後の会見で、利上げについて慎重なメッセージを発した。

22年から24年にかけて総額24兆5000億円の為替介入を指揮した神田真人前財務官は昨年、1カ月強で10円の円安進行は「かなり急速」、2週間で4%の円安はファンダメンタルズに沿っておらず「明らかに投機」との見解を示した。ブルームバーグの試算によると、過去28日間の円の最高値から円安が10円進んだ水準は159円前後で、過去2週間の最高値から4%の下落は162円前後となる。

為替トレーダーにとって状況を複雑にしているのは、日本が昨年、急激な円安に歯止めをかけるだけでなく、円の上昇加速を狙って介入する可能性があることを示したことだ。そして、トレーダーが当局の「防衛ライン」について臆測を巡らせる一方、当局者は円安のペースや過度な変動を注視していることを示唆している。

もっとも、ラボバンクの為替戦略部門責任者、ジェーン・フォーリー氏はリポートで、ドル・円相場が「説得力を持って下落するには、市場が日銀の金融引き締めが差し迫っているとより強く懸念する必要がある」と指摘する。

オーバーナイト・インデックス・スワップ(OIS)市場では、今月23ー24日の日銀会合での利上げの予想確率が30%台にとどまっている。

米雇用統計以外で、フォーリー氏は来週14日に予定されている氷見野良三副総裁の講演が日銀の意図に関するヒントを得る上で重要とみる。

植田総裁は6日、経済・物価情勢の改善が続けば利上げを続ける方針を改めて表明したが、具体的な時期については示唆を避けた。

(8段落目に介入ポイントに関する分析を追加して全体を更新します)

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