(ブルームバーグ):米ワシントン州で退職後の生活を送るジム・レーク氏(64)は、敬虔(けいけん)なクリスチャンだ。人工妊娠中絶や性適合プロセス、胚性幹細胞研究に反対の姿勢を貫いてきた。しかし自分の信仰を資産運用に生かせることが可能だと知ったのは、この1年ほどのことだ。
レーク氏が乗り換えた信仰ベース投資ファンドの一つが、ガイドストーン・ファンズだ。テキサス州に本社を置くガイドストーンは106年の歴史を持ち、管理資産はおよそ240億ドル(約3兆7700億円)。南部バプテスト教会の退職者を対象に資産を運用してきた。最近ではレーク氏とその妻のように、信仰に基づいた運用を志向する顧客が増えているという。
ガイドストーンが所属する保守系クリスチャン投資家の連合は、進歩的な企業方針に対抗しようと、株主としての影響力を行使し始めている。企業によるプライドパレードへの資金拠出や、従業員が中絶手術を受けるための旅費負担のほか、政治・信仰を理由に顧客の口座を閉鎖した銀行がその標的だ。

ガイドストーンで株主擁護を監督するウィル・ロフランド氏によると、保守的な信仰に基づく民間ファンドや州年金基金には現在、企業への影響力行使に使える資金がおよそ5000億ドルあるという。緩やかな連合には信仰ベース上場投資信託(ETF)最大手のインスパイア・インベスティングや、影響力のある保守系法律事務所グループのアライアンス・ディフェンディング・フリーダムのほか、共和党が優勢な州の教職員基金などが含まれる。
連合のメンバーは資金を集めながら、企業幹部との会談を重ね、株主提案を行っている。現時点ではその数は多くないが、今年はさらに支持層を固めより多くの企業を標的にする方針だと、ガイドストーンのロフランド氏は話した。
「主をたたえたい」
投資家は自分たちの持つすべてのリソースで「主をたたえたいのだ」とロフランド氏は説明する。「神をたたえる方法で自分たちのドルが投資されることを望んでいる」と話した。
宗教に基づく投資は数十年前から存在しており、これまでは労働者の権利や気候変動問題など、リベラルな問題に焦点を絞ったものが多かった。しかし米国の政治的な右傾化と、保守系アクティビストや弁護士による企業への影響力行使が広がっており、ガイドストーンのようなファンドは勢いを増している。ウォルマートやトヨタ自動車、ハーレーダビッドソンなどに、性的少数者(LGBTQ)関連の方針を改めさせた反DEI(多様性、公平性、包摂性)アクティビストのロビー・スターバック氏の名前は何度も耳にする。
宗教に基づくファンドへの関心は一般投資家の間で高まっていると、信仰ベース投資助言サービスを行うブライトライトのグローバルマルチアセット投資責任者、ティム・マクレディ氏は指摘する。
同社が毎年実施する調査によると、信仰ベースのETFとミューチュアルファンドは昨年初めて1000億ドルの大台に乗せた。信仰に基づく資産運用27社のデータに基づく分析は、こうした活動のほんの一部を把握したに過ぎないとみられ、全体像としては2000億ドルから5000億ドルの規模が考えられるという。過去3年間の資金流出入は、12%の入超だったと同氏は述べた。

S&P500種下回る
ロフランド氏によると、あるブローカーディーラー会社では2021年にガイドストーンと提携していたアドバイザーが200人だったのが、現在は2000人余りに増えている。アイダホ州メリディアンに本社を置くインスパイアでは、新規の純資産が昨年に3億3400万ドルだったという。同社最大のETF、インスパイア100のリターンは再投資配当を除くと昨年に11.5%。S&P500種株価指数の23%上昇には及ばなかった。
ガイドストーン最大のファンド、ガイドストーン・エクイティ・インデックス・ファンドは昨年に20%のリターンを記録。これもS&P500種を小幅ながら下回った。
冒頭のレーク氏は「信仰に配慮し続けながら競争力もあるという事実は、私の目を開かせてくれた」と語った。
インスパイアは2023年、トランプ氏のアドバイザーであるスティーブン・ミラー氏が率いるグループに加わり、米小売りのターゲットを提訴した。LGBTQに関連した商品販売が消費者によるボイコットを引き起こし、投資家に巨額の負担を強いたというのが原告の主張だった。連邦地裁はこの訴訟棄却を求めたターゲットの訴えを退け、同社はLGBTQに関連した商品を一部の店舗から引き揚げた。同社のコメントは得られていない。
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管理資産約32億ドルのインスパイアは、DEI関連の株主提案を昨年だけで二十数件起こした。今年はもっと提起する計画だ。
「ドル資金は神の恵みであり、その管理人である当社の任務は、聖書に記された真実を企業権力に伝えることだ」とインスパイアの創業者、ロバート・ネッツリー氏は述べた。
保守派と宗教団体の連合による提案が株主から強い支持を得られないとしても、企業幹部に影響を及ぼす可能性は高いと指摘する学者もいる。カリフォルニア大学デービス校で信仰ベース投資を研究するアメリア・ミアザド教授代理は、環境と社会、ガバナンスの戦略に対する反発に似ていると指摘。ブラックロックがそうしたテーマの新規ファンド数を減らしたことを挙げた。
「環境や社会問題について企業の言論を封じ込めることが成功と言うのなら、これらの投資家はアンチESG(環境、社会、企業統治)ムーブメントと同様に成功するだろう」と述べた。
原題:A $24 Billion Fund Puts Its Religious Stamp on Corporate America (4)(抜粋)
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