(ブルームバーグ):ロンドン発パリ行きの列車ユーロスターのチケットを予約するとすぐに、私と友人2人は旅の最重要事項である「どこで食事をするか」を検討し始めた。
特に興味を持ったのは、ひとひねりを加えた伝統的なフランス料理を提供する大人気のレストラン、「ビストロ・シェ・レミー」だ。
パリのレストランの多くとは異なり、飛び込み客はほとんど受け入れていない。実際、ディナーの予約は既に2カ月先まで全て埋まっており、唯一取れた予約は平日のランチだった。
パリ近郊マルヌ・ラ・バレの「ディズニーランド・パリ」内にあるこのレストランは、フランス料理のシェフになることを夢見るネズミの冒険を描いた2007年のピクサーの大ヒットアニメ映画「レミーのおいしいレストラン」(邦題)がテーマ。
パーク内でレストランが位置する「レミー広場」のエリアには、ギフトショップやライド系アトラクションの「レミーのおいしいレストラン:ザ・アドベンチャー」が併設されている。
このエリアは、6億ドル(約925億円)余りの興行収入を記録した映画の成功を受けて、14年に建設された。
レストランに一歩入ればパリのビストロの雰囲気が強まり、壁には映画の主要キャラクターの肖像画や架空のシェフ、オーグスト・グストーの賞状が飾られている。
短い廊下を抜けると、ディズニーの魔法が始まる。床のタイルは突然こぶし大から皿大に変わり、壁紙の模様もより大きく、より高くなる。一瞬にして、自分たちがまるで映画のネズミと同じサイズに縮んでしまったような気分になった。
ダイニングルームは、そうした幻想を後押しするよう巧みに設計されている。一部の客席は巨大な皿で仕切られたブース型で、まるで乾燥ラックに隠れているかのようだ。マスタードやジャムの瓶のふたのような丸いテーブルもある。
このレストランは、2品か3品のコースメニューをそれぞれ40ユーロ(約6500円)と55ユーロで提供。いずれも数種類のオプションがあり、ベジタリアン向けのメニューも備える。
この場所で浮き彫りになるのは、既にフランスにいるのにフランスをテーマにした目新しいレストランで食事をしているという皮肉な現実だ。パーク周辺には本物のフランス料理店が数十軒あり、パリに店を構える世界屈指のレストランまで45分で行ける。
しかし、テーマが偽物でありながら本物であること、つまり架空のフランス料理店がフランスに実在することには利点がある。ワインはまずまずの品質で、それほど高価ではない。ウエーターは本物のフランス語のアクセントで話し、ディズニーランドということを差し引いても、典型的なパリのウエーターよりはるかに陽気だ。
ビストロ・シェ・レミーを訪れる価値はあるだろうか。ワインを含めた3人分の食事代はおよそ220ユーロだった。予約が取りにくく、客層がパーク来園者に限定されることを考えれば、妥当な値段で、パリ中心部の一般的なブラッスリーで食事をするよりも少し高い程度だ。
そして、ここでの体験はテーブルを確保する手間をかけるだけの価値があるだろうか。食事だけを楽しむのなら、恐らくその価値はないだろう。しかし、ディズニーランドに食事を目的に行く人はいない。この場所の魅力は、大人も子供も不思議な魔法の世界にしばらく浸れることだ。われわれはそれを満喫した。
原題:One of the Toughest Tables to Book in Paris Is in Disneyland(抜粋)
もっと読むにはこちら bloomberg.co.jp
©2024 Bloomberg L.P.