(ブルームバーグ):サウジアラビアは近年、競馬やゴルフ、テニス、ボクシングなどに巨額の資金を投じ、世界のスポーツ界に多大な影響力を及ぼしている。
そして今度は、世界で最も権威のあるサッカー大会、国際サッカー連盟(FIFA)男子ワールドカップ(W杯)を2034年に開催することが決まった。
中東でW杯がこれまで開催されたのは22年のカタール大会だけで、しかも大きな論争の渦中で開かれた。暑さを避けるため開催時期が冬に変更され、人権問題が大きな注目を集め、直前にスタジアムでのビールの販売が禁止された。
それでもカタールは大会を決行。一部の専門家は「史上最高」のW杯になったと評した。FIFAが今月11日にサウジを開催地に選定したと発表した34年大会は、カタール大会と同じ懸念が一部で生じている。
なぜサウジなのか
4年に1回開催されるW杯の34年大会を巡っては、オーストラリアが立候補を取り下げた後、候補として残ったのはサウジだけだった。
ムハンマド皇太子は、サウジ経済の石油依存からの脱却と多角化の取り組みを主導。新たな産業の創出や観光の促進、若者向け娯楽の選択肢拡大などを推進しており、そうした目的を達成するため、スポーツで大きな賭けに出ている。
サウジでは既に、自動車レ-スの最高峰「フォーミュラワン(F1)」が毎年開催されている。27年にはアジアサッカー連盟(AFC)アジアカップと29年のアジア冬季競技大会の開催も決定している。
サウジ政府系ファンドが支援する新興のゴルフツアー、LIVゴルフは、ライバルの米男子ゴルフ、PGAツアーとの提携に向けて動いている。
また、サウジのサッカーリーグには、クリスティアーノ・ロナウド選手をはじめ一流選手が所属。W杯の開催により、数百万人の観光客を引きつけることができ、新たな収益源の確保につながる。
サウジが唯一の候補地となった経緯は
FIFAは34年大会をアジアまたはオセアニアで開催するよう求めていたため、当初から候補は限られていた。豪州は今後数年間は自国開催の他のスポーツイベントに集中すると決め撤退した。
サッカーのインフラ整備に数十億ドルを投じる用意があるサウジが、FIFAとの強固な関係を持つことを考えると、他の国々が招致に二の足を踏んだ可能性もある。
サウジ政府が大半の株式を所有する国営石油会社サウジアラムコは、北米で開催される26年W杯とブラジルで27年に開かれる女子W杯のスポンサーだ。
26年W杯からは男子大会の出場チーム枠が32から48に拡大され、開催国の負担が大幅に増える。そのため、26年大会は米国とメキシコ、カナダの3カ国が共同開催する。
30年には、FIFAはW杯100周年を記念し、アルゼンチンとウルグアイ、パラグアイ、スペイン、ポルトガル、モロッコで試合を行うという、前例のない複数の大陸をまたがる開催を予定している。
34年に単独開催するサウジの計画は野心的だが、費用の見積もりは開示していない。カタールは22年大会の開催に約2000億ドル(約31兆円)を費やしたが、これには大会が開催されずとも建設されていたであろう地下鉄の新設プロジェクトも含まれる。
人権・社会問題は
米国のロン・ワイデン、ディック・ダービン両上院議員は、サウジの人権問題を理由にFIFAに同国の招致活動を退けるよう求めていた。
ヒューマン・ライツ・ウォッチやアムネスティ・インターナショナルなどの人権擁護団体は、外国人労働者の搾取について懸念を表明。カタールでのW杯開催に当たりスタジアムや宿泊施設の建設に外国人労働者が使われたことを巡っても批判の声が上がっていた。
米国務省は23年の年次人権報告書で、サウジが抱えるその他の重要な問題として、女性差別や表現の自由に対する制限などを挙げている。
天候の問題は
サウジはカタールと同様、夏場の気温が極端に高くなる。首都リヤドやジッダなどの都市では夏季に気温40度を超える暑さが日常的だが、サウジがW杯の試合開催を計画している5都市のうちアブハなどは、一般的に気温が低めだ。
カタールは11月中旬-12月中旬に大会を開催して暑さの問題を克服した。ただ、この時期への変更には一部のクラブオーナーから不満の声も上がり、各地のリーグが混乱し、スター選手がシーズン中に負傷するリスクが生じると指摘されていた。
冬の開催であれば、サウジの都市は、夏の欧州よりも気温が低い傾向がある。同国は、W杯をどの季節でも開催する用意があるとし、開催時期の決定はFIFAに委ねる考えを示している。34年大会では、サッカークラブの日程に再び混乱が生じる公算が大きい。
アルコールは提供されるのか
サウジ開催を巡る最大の疑問の一つは、アルコール提供の有無だ。同国では一般的にアルコール販売と消費が禁止されているが、若干の規制緩和もある。今年に入りサウジはリヤドに国内初のアルコール販売店をオープン。厳密には非イスラム教徒の外交官向けで、同国が酒類提供を拡大する計画があるという兆候はない。
22年カタール大会の直前、FIFAは開催国側の要請でスタジアムでのビール販売を禁止した。だが、ファンは他の場所でビールを飲むことができた。
サウジの建設計画は
サウジの計画では、5都市に広がる15のスタジアムでW杯の試合を行う予定。11の会場はゼロから建設され、4会場はFIFA基準を満たすよう改修される。大半はリヤドに建設予定で、ジッダやアルコバール、アブハ、そして北西部の新しい都市圏ネオムでも試合が開催される。
サウジはファンやチームのため、開催都市全体でホテルの客室23万室以上を用意するとし、航空輸送能力の拡大にも取り組んでいる。
サウジ2社目となるフラッグシップ航空会社リヤド・エアを来年就航させる方針で、30年までに100都市以上を結び年1億人の利用者を目標としている。さらに、国内移動を円滑にするため、鉄道やバスの路線も延長される。
原題:About Saudi Plans for a Second World Cup in the Gulf: QuickTake(抜粋)
もっと読むにはこちら bloomberg.co.jp
©2024 Bloomberg L.P.