韓国国会が尹錫悦大統領の弾劾訴追案を可決したことで、大統領の最大のライバルである李在明氏に国政トップに就くチャンスがついに巡ってきた。

14日の採決では一部の与党議員が賛成に回ったことで訴追案は可決。尹大統領は職務停止となった。最大野党・共に民主党の代表を務める李氏は、次期大統領の最有力候補に浮上した。

ベテラン労働運動家の李氏は汚職疑惑、ハンガーストライキ、工場でのけが、暴漢に首を切りつけられる事件など、数々の困難を乗り越えてきた。その理想主義からバーニー・サンダース米上院議員と比べられたり、大衆主義的スタイルから「韓国のトランプ」と呼ばれたりしている。

尹大統領の弾劾は、李氏にとって劇的な転換点となった。李氏は先月、公職選挙法違反の罪で懲役1年、執行猶予2年を言い渡され、大統領になる夢はほぼついえたかのように見えた。刑が確定すると、李氏は国会議員を失職し、10年間は被選挙権を失う。

国会でのインタビュー後の李在明氏(ソウル、12月5日)

「尹氏の自滅行為により、李氏が息を吹き返した」と、延世大学行政学科のチェ・ヨンジュン教授は指摘。「李氏は尹大統領の後任として最有力候補であることは間違いなく、それに向け出馬の準備をするだろう」と述べた。

李氏は判決を不服として控訴したことにより、大統領選の早期実施に備える上で十分な時間を稼げるかもしれない。

尹大統領弾劾訴追を受け、今後は憲法裁判所がその妥当性を審査し180日以内に決定を下す。弾劾が妥当と判断されれば、大統領は罷免され、60日以内に大統領選挙が行われる。憲法裁の審査プロセスは数週間から数カ月かかる可能性がある。

尹氏は3日夜、1987年の民主化後では初めての非常戒厳を宣布したが、国会本会議で非常戒厳の解除を求める決議案が可決されたことから、わずか6時間で解除した。

尹大統領の弾劾訴追案可決を伝える中央日報の号外を読む人(ソウル、12月14日)

長年の軍事独裁に対する激しい抗議運動を経て、世界で最も強固な民主主義国家を築き上げたことに誇りを持つ多くの韓国国民は、突然の非常戒厳宣布に強く反発した。

李氏が再び大統領選に出馬する場合、こうした国民感情に乗ることになるだろう。2022年の大統領選は韓国史上最も接戦となり、李氏は僅差で尹氏に敗れた。今回は、与党の支持基盤である保守層の有権者も取り込むため、より穏健な指導者として自身をアピールする可能性があると、チェ教授は指摘する。

選挙が今実施された場合、李氏の大勝を世論調査は示唆している。12月10日に行われたエムブレイン・パブリックの調査では、「次期大統領に誰が最も適していると思うか」との質問に対し、37%が李氏と答えたのに対し、与党「国民の力」の韓東勲代表はわずか7%だった。韓代表は16日、辞意を表明した。

労働者階級の家庭で育った李氏は、10代の頃に働いていた工場で機械に挟まれる事故に遭い、左腕がゆがんだままになった。05年に政界入りし10年に城南市長に当選。学校制服や給食の無償化などの政策が功を奏し、再選を果たしたが、大衆迎合主義として批判も浴びた。

16年のインタビューでは自らを有権者の意思を実行する謙虚な公僕と表現。その年、当時の朴槿恵大統領の退陣を求める運動を主導し、朴氏の後任を決める17年の大統領選では、共に民主党の候補者指名を巡って文在寅氏と争って敗れた。

対日強硬姿勢を軟化か

対照的な生い立ちにもかかわらず、李氏はトランプ次期米大統領と比較されることが多い。両者とも政治エリートを嫌い、暗殺未遂事件を乗り切った。

李氏は支持者とのコミュニケーションや政敵の批判にソーシャルメディアを頻繁に活用している。尹大統領が非常戒厳を宣布した12月3日の夜には、自身が国会に入るために塀を飛び越える様子をライブ配信した。

李氏は、16年と20年の米大統領選で民主党候補指名を争って敗れた進歩派のサンダース上院議員に自身をなぞらえている。李氏は所得格差を批判し、韓国をアジアで初めてベーシックインカム制度を導入する国にするよう推進している。

外交政策に関しては、北朝鮮に対し融和的な路線を追求し、米国および中国とよりバランスの取れた関係を推進する可能性が高い。日本については、朝鮮半島の植民地支配に対する反省が不十分だと批判してきたが、そうした姿勢を和らげている。

ブルームバーグのインタビューで語る李在明氏

李氏は今月初めのブルームバーグとのインタビューで、日本の指導者らとの会談の見通しについて、「お互いを尊重し、理解し、お互いに利益をもたらす方法を見つけることが良好な関係だ」と語った。

李氏は昨年、東京電力福島第1原発の処理水海洋放出に理解を示した尹政権の方針を批判。抗議のため24日間にわたってハンガーストライキを行った。野党指導者によるハンストでは1983年以降で最長だった。

チェ・ジウク氏らシティグループのエコノミストらは、憲法裁判所が来年3月半ばごろに尹氏の弾劾は妥当との判断を下し、5月初旬か中旬に大統領選が行われると予想している。

李氏が大統領選で当選を果たした場合、在任中は内乱罪を犯したり外国の敵と結託して国家の安全を脅かす行為をしたりした場合を除き、刑事訴追は免れる。

原題:Yoon’s Fall Gives Nemesis Surprise Path Back to Lead South Korea(抜粋)

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