今後予想される展開
最後に、習近平政権下の政策発動の特徴を改めて整理してみると、以下の3点にまとめることができる。
第1に、習近平国家主席が全てを決めるということである。
強い指導力によって軸のぶれない政策を打ち出すことができる一方、習近平国家主席からの批判を恐れる経済官僚は何も提言できなくなってしまう。習近平国家主席はことあるごとに「失敗を恐れず政策に取り組め」と訓示しているが、失敗すれば処分されるリスクが高いため、経済官僚にとっては何もチャレンジしないことが最善手となる。中国の経済政策が変わるきっかけは、習近平国家主席の判断が変わること以外には期待できない。
第2に、大胆な政策転換を厭わないことである。
今回の経済対策は、習近平国家主席が景気判断を変えた瞬間、啓蒙重視から実弾重視に一気に転換した。2022年末のゼロコロナ政策の解除も、国民の不満が無視できないと判断したとたん、一気に実現した。政策実行までに合意形成が不可欠な民主主義国では望むべくもない機動力である。ただし、政策転換のタイミングは習近平国家主席の判断次第であるため、予測可能性がないという問題がある。
第3に、不適切な政策を打ち出すケースがあることである。2010年代の不動産バブルの放置、2020~2022 年に実施されたゼロコロナ政策、そして2024年の景気対策の遅れ、いずれも(後に善後策が講じられたとはいえ)失敗策であった。このリストを眺める限り、習近平国家主席の経済運営能力には疑問符を付けざるをえない。
以上3点を踏まえれば、今後予想される展開は以下のようなものになるだろう。
2024年に打ち出された景気対策は明らかに力不足であり、いずれ景気減速が明確化する。再び国内で社会不安が高まり、不穏な空気が充満するようになる。それに危機感を抱いた習近平国家主席は、追い込まれる形でより大胆な一手を打つ。おそらく、規模を重視した財政・金融政策であろう。これは、短期的には景気を持ち上げ社会不安を和らげるが、後年、再び深刻な副作用に直面する。
これは一つのシナリオにすぎず、必ずしも実現するとは限らないが、少なくとも、習近平一強体制下での経済運営は先行き多難と判断される。
(※情報提供、記事執筆:日本総合研究所 理事 枩村秀樹、調査部 主任研究員 佐野淳也)