トランプ次期米大統領が新政権の人工知能(AI)・暗号資産責任者に起用すると発表したデービッド・サックス氏(52)は、どちらの業界とも深いつながりはなく、また、これらへの投資実績が豊富なわけでもない。しかし、同氏が持っているものはテクノロジー投資家にとってより重要だ。それは新興技術に友好的な世界観と、政府による規制に対する長年の懐疑心だ。

5日の夜にマイアミの私邸でサックス氏とともに祝賀会を開いたキース・ラボイス氏は、「サックス氏は米国がイノベーションの最先端を行くことを確実にしてくれるだろう。米国が中国に後れを取らないようにし、新たに出現する技術を左派の検閲や偏見から守る」と期待を寄せた。

サックス氏の起用は、シリコンバレーではあまり予想されていなかった。同氏による暗号資産への投資はほんの数件にとどまり、同業界における主要な人物とは見なされていないからだ。また、イーロン・マスク氏のAIスタートアップxAIを支持しているものの、AIへの投資も比較的少ない。

香港に展示されたトランプ氏の漫画絵

ただサックス氏は、民間企業の実務に対する政府の過度な関与を長年批判してきた。ベンチャーキャピタル(VC)のクラフト・ベンチャーズの共同創業者で、いわゆる「ペイパルマフィア」(社会やビジネスの変革に寄与したペイパル出身者)の同氏は、長年にわたり業界で最も声高に右派に傾いた発言を展開してきた人物の1人だ。

今回の人選は、AIや暗号資産の業界幹部が政府の介入を潜在的な脅威とみなすスタートアップの世界では恩恵とみられている。暗号資産関連企業に対する米国の措置によって多くのスタートアップが国外に流出したほか、AI業界の幹部らは過度に煩わしい規制が安全性という名の下に新興産業を窒息させるのではないかと懸念している。

暗号資産支持者はこの人選を歓迎。マルチコイン・キャピタルのマネジングパートナー、カイル・サマニ氏は「暗号資産とAIは現在、米国にとって最も急を要する戦略的優先事項の二つであり、サックス氏はこの極めて重要な役割を率いるのに唯一無二の資格を持つ、世界で数少ない人物の1人だ」とし、サックス氏は「米国の将来を形作る上でかけがえのない資産」になるだろうと述べた。サックス氏はマルチコイン・キャピタルに投資している。

サックス氏にクラフトを離れる意向はなく、トランプ次期政権での新たな職務はフルタイムの政府の業務ではなく顧問的な役割になると広報担当者が述べた。指名にあたり、サックス氏は資産を売却したり公表したりする必要はなく、マスク氏と同様、特別政府職員となる。

報酬の有無を問わず、年間で最大130日間勤務できるが、特別政府職員には利益相反規則が適用され、保有資産に影響を与える可能性がある問題から身を引く必要がある。

原題:Trump’s Crypto-AI Czar Is Longtime Critic of Tech Regulation (1)(抜粋)

--取材協力:Shirin Ghaffary、Olga Kharif、Katie Roof、Jackie Davalos.

もっと読むにはこちら bloomberg.co.jp

©2024 Bloomberg L.P.