アジア開発銀行(ADB)の次期総裁で前財務官の神田真人氏は、トランプ次期米大統領の政策を念頭に、保護主義的な考え方が強まればアジア経済に悪影響が及ぶリスクがあるとの見解を示した。

神田真人・次期ADB総裁

神田氏は、関税引き上げや移民規制強化などを進める可能性があるトランプ次期米政権について直接的なコメントを控えた一方、一般論として「世界経済に大きな影響力を持つ米国の政策は、貿易や金融市場などを通じて日本を含むアジア経済に大きな影響を与え得る」と語った。

その上で、次期米政権の動向については「引き続き高い関心を持って注視していく」と述べた。インタビューは5日に行った。

11月の米大統領選で勝利したトランプ氏は、1期目と同様に「米国第一主義」の政策を推進する姿勢を示している。カナダやメキシコ、中国に対しては既に関税を強化する方針を表明した。次期米政権で想定される保護主義的な政策に世界が身構える中、神田氏は米国が及ぼし得るリスクに警鐘を鳴らした格好だ。

「国際的な合意形成を図ることが明らかに難しくなってきている」と神田氏が言うように、新興国を中心とするいわゆる「グローバルサウス」の台頭などで議論のバランスが変わったり、より複雑な利害調整が必要になったりしている現状がある。気候変動や感染症対策などの人類共通の課題の解決にはグローバルな協調が求められ、「高い専門性と政治的中立性を掲げる国際機関の役割は大きい」と述べた。

神田氏は、今年7月末まで3年にわたって財務省の国際部門を率いてきた。在任中の2022年9月には歴史的な円安を受けて24年ぶりとなる円買い介入の陣頭指揮を執り、「令和のミスター円」とも呼ばれた。ADB総裁には来年2月に着任予定で、任期は5年間となる。

急変動には是正必要

為替相場を巡っては、円の総合的な実力を示す「実質実効為替レート」で円の価値が約3分の1まで落ちたことに言及。労働市場の流動化や新陳代謝の促進を通じた生産性の向上が急務だと説いた。

為替は「ファンダメンタルズに沿って安定的に推移することが望ましい」と従来からの見解を示し、「急激な変動があった場合は、家計も企業も対応ができないため、それは是正しなければならない。それは円高、円安どちらの方向であってもそうだ」とした。

仮定の話としつつ、米国の今後のポリシーミックス次第では為替変動などの影響が出る可能性があるとも話した。

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