人間の目で4Kと8Kの解像度の違いをはっきり見分けることは難しい。数年ごとにマシンの性能を高めて事業を拡大してきたゲーム機メーカーは今、性能の向上を消費者が劇的と感じることができない未来に直面している。

ソニーグループは11月、家庭用ゲーム機「プレイステーション5(PS5)Pro」を発売。価格は米国向けが700ドル(日本向けは11万9980円)だ。

2020年に投入された「PS5」のアップグレード版であるProは、人工知能(AI)を活用し、ゲームのフレームレート(1秒当たりで現れるフレーム数)を向上させながら、優れた画質を提供している。

少なくとも82のゲームについてはこのスペックが生かされている。ゲーマーは剣のリアルな輝きを目にすることができ、スムーズな剣さばきで戦闘アクションを体験できる。

「PS5Pro」

だが、これほどまでにハイテクを駆使し、通常モデルより200ドルも高いPS5Proは、これまでのレビューでは必須アイテムであるとは示唆されていない。

ニコ・パートナーズのリサーチ・インサイト担当ディレクター、ダニエル・アフマド氏は「改善はされている」としながらも、マイクロソフトの「Xbox」シリーズXと比べ「完全に次世代の製品と言えるものは何もない」と指摘。

「製品世代間の飛躍を見分けるのは、以前よりもずっと難しくなっている」と述べた。

ゲーム機を所有する世帯数は、ここ10年余りほとんど変化していない。多くのゲーマーはすでに持っているゲーム機で十分だと感じているため、買い替えペースは鈍い。

ソニーは最新機種がさらに高性能で、より高速かつ鮮明で、もっともっと衝撃的だと消費者を納得させようとしているが、ユーザーがその違いを目で見て確認できないのであれば、購入を促すには不十分かもしれない。

アフマド氏はProの販売台数は、PS5世代の商品寿命終了までにPS5全体の10%になると予測。PS4ではProが15%を占めていた。

Proの割合が低下する理由は「価格設定」だと同氏は述べ、ソニーがPS5の安価なデジタル版も提供していることに触れた。デジタル版の方が「魅力的で、以前と比較して最も高い販売シェアを得ている」と話した。

別の視点

XboxのシリーズXは20年の発売当時、最も高性能なゲーム機だった。価格は500ドルで8Kに対応し、1秒当たり最大120フレームの高速アクションを楽しめた。しかし、4年前でも、消費者は以前の1秒当たり60フレームと意味ある違いがあるのか疑問視していた。

フィル・スペンサー氏

それでも、新型機は次々とハードルを上げていくようだ。屈折光をより正確にレンダリングするレイトレーシングのような機能は、全てのゲーム機で標準装備となりつつある。

また、キャラクターや世界をリアルに表現するアニメーションや3Dモデリングなど、ハードウエアの進歩が消費者に目に見える利益をもたらす分野もある。さらなる進歩には、より高度な半導体が必要だ。

一方、これまでの製品世代とは異なり、発売から数年を経ても部品コストの低下は見られず、ハードウエアのみでは利益を上げることができない状況が続いている。その結果、ソニーもマイクロソフトも、発売から4年たったゲーム機の値下げをしていない。

任天堂は01年発売の「ゲームキューブ」で大きな成功を収めることができなかった後、ゲーム機の性能を継続的に強化するという競争から早期に撤退した。

以来、同社の経営陣はソニーとマイクロソフトが歩む道を公然と批判し、家庭用製品に費用対効果の分析を慎重に行わずに最先端の技術を用いることは正当化されないと主張している。

17年発売の「ニンテンドースイッチ」は、当時最も高性能なゲーム機ではなかったが、それでも業界最大のヒット商品の一つになった。

任天堂は来年発売予定の次世代ゲーム機でも、そのビジョンを貫く可能性が高いと、同社のハードウエア開発を担当する上席執行役員、塩田興氏は今月、投資家に説明。

予算が大きければ良いアイデアが生まれるわけではないとし、ハードウエアとソフトウエアの開発チームがアイデアを共有し、面白いものを生み出すプロセスに今後も重点的に取り組むと述べた。

マイクロソフトは性能以外の視点を持ちつつある。同社のゲーム部門最高経営責任者(CEO)フィル・スペンサー氏は最近のインタビューで、「1000ドルのゲーム機で市場を拡大することはできない」と認めている。

ホリデーシーズン向けの新しいキャンペーンでは、ゲーマーが500ドルのXboxを所有していなくてもプレーできると強調。スマートテレビやスマートフォン、ノートパソコンなどにXboxアプリをインストールすれば、プレー可能だとアピールしている。

クラウドゲームのテクノロジーにより、消費者がすでに所有しているデバイスにゲームをストリーミングすることができる。Xboxは、月額20ドルの「Game Pass Ultimate」プランに加入しているユーザーは50本のゲームをこうしたデバイスにストリーミングできると発表。

「市場を拡大しようとするのであれば、より柔軟なビジネスモデル、より多くの人々がアクセスできるコンテンツ、そしてゲームが利用できるより多くのデバイスについて考えなければならない」とスペンサー氏は語った。

ソニーの経営陣もこれに異論はないようだ。 吉田憲一郎CEOは最近、成功の尺度は販売台数ではなくゲーマーがゲームに費やす時間だと示唆した。

原題:Video Game Console Makers Confront Performance Ceiling(抜粋)

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