「物価⇒消費」と「消費⇒物価」のどちらのフェーズにあるのか?

個人消費とインフレの関係は簡単なものではない。一般に、消費が強ければ需要超過となりインフレの加速(消費⇒物価)が想定される一方、インフレが加速すれば消費が抑制される(物価⇒消費)という動きも想定される。このように、消費とインフレは互いに影響し合ってパスが決まってくると考えられる。ウォルマートは当初(23年後半頃)、顧客がインフレ疲れを示したことで、個人消費の弱さを察知したとみられる。個人消費が弱いことから、値下げを余儀なくされている(消費⇒物価)と捉えたのだろう。しかし、実際に値下げが始まると、消費は堅調に推移した。結果論としては、ディスインフレが消費を刺激する効果(物価⇒消費)が大きかったということになる。今後もこのサイクルが続くとすれば、ウォルマートの決算で示されたように個人消費は堅調な推移となるだろう。

ウォルマートとターゲットの明暗はディスインフレの進展を示す

一方、米ディスカウントストアのターゲットは11月20日に8-10月期の決算を発表した。
結果は「通期の業績見通しを引き下げた。売り上げが伸び悩み、在庫が積み上がっていることが要因。株価は通常取引開始前の時間外で一時20%下落した」(Bloomberg)。
前日に発表されたウォルマートの決算は好調だったことと対照的な結果となり、「投資家は、ターゲットが規模に勝る競合他社に市場シェアを奪われているだけなのか、他の小売業者も同様の苦境に直面しているのか疑問視している」(同)とされた。

個社の業績の分析はさておき、一般にターゲットは中~高所得者向け、ウォルマートは低所得者向けとされていることを考慮すると、マクロ経済的には消費者の節約志向によってディスインフレ圧力が高まっていると整理できる。

ターゲットのブライアン・C・コーネルCEOは「当社の他の2つの裁量的支出事業である家庭用品と関連耐久財(Home and Hardlines)は、消費者がこれらのカテゴリーでの支出を慎重に続けているため、第3四半期も引き続き低迷した。消費者およびマクロ環境を評価する際、ここしばらくの間、環境を特徴づけてきた多くの同じテーマが見られる。消費者は、予算が逼迫した状態が続いており、数年にわたる物価上昇の累積的影響を克服しようとしながら、慎重に買い物をするようになっていると伝えている」「消費者は買い物行動においてますます機転が利くようになり、必要になるぎりぎりまで購入を待ったり、お買い得品に注目し、見つけたときに買いだめしたりしている」と述べた(筆者訳)。

中~高所得者がウォルマートに流れてくる動きが続けば、インフレは抑制されるだろう。個別の商品の価格が上がったとしても、消費バスケットがより価格が安いものにシフトすることで、全体の物価は抑えられる効果が働く。「トランプ氏の政策=インフレ的」という表面的な動きだけでなく、それを受けてそれぞれの経済主体がどのような行動をとるか、まで考える必要があるだろう。

筆者は、コロナ後のペントアップ需要はもはや終わったと考えられる上に、賃金上昇率もコロナ前に近づいていることを考慮すると、人々が安価な商品に流れる動きが続くと予想している。もっとも、失業率は低位であることを考慮すると、家計が破綻するリスクも低い。結果的にディスインフレ圧力が強まる中で経済はソフトランディングに向かって行くというのが尤もらしい予想と言えるだろう。