日本銀行の植田和男総裁は18日、金融緩和度合いを今後調整していくことは物価安定目標の持続的・安定的な実現に役立つとの見解を示した。注目の追加利上げ時期については具体的な言及はなかった。名古屋市内で講演と記者会見を行った。

植田総裁は、経済や物価の改善に併せて緩和度合いを少しずつ調整していくことは成長を支え、「物価安定の目標を持続的・安定的に実現していくことに資する」と指摘。タイミングについては「先行きの経済・物価・金融情勢次第」とし、毎回の金融政策決定会合で「利用可能なデータや情報などから、経済・物価の現状評価や見通しをアップデートしながら政策判断を行っていく」と述べた。

日銀の経済・物価見通しが実現すれば、それに応じて政策金利を引き上げ、金融緩和の度合いを調整していくと改めて表明。もっとも、日銀の見通しを巡る不確実性は高いとし、米国をはじめとした海外経済や金融資本市場の動向が、「見通しやリスク、見通しが実現する確度に及ぼす影響を見極めていく必要がある」とした。

日銀は10月会合で政策金利を0.25%程度で維持することを決めた。植田総裁は会合後の会見で、政策判断に「時間的な余裕はある」との表現を今後は使わないと語った。トランプ米次期大統領のインフレ的な政策への思惑からドル高・円安が進行する中、市場には早期の追加利上げ観測が強まっているが、今回の講演と記者会見では12月会合での利上げを強く示唆する発言はなかった。

タイミング待ちとの見方も

大和証券の岩下真理エグゼクティブエコノミストは、総裁講演について、12月会合に向けて利上げを強く示唆するものはなく期待外れだったと指摘。まだ会合まで1カ月あり、「12月にやると決め打ちはしていない状況に見える」とし、それでも10月の経済・物価情勢の展望(展望リポート)の見通しに沿った動きが続けば金融緩和度合いの調整は可能で、「あとはタイミング待ち」との見方を示した。

植田総裁の講演後、円相場は一時1ドル=155円台に下落した。足元では154円台半ばで推移している。債券相場は上昇(金利は低下)に転じている。

植田総裁は、日銀が政策判断で重視している賃金と物価の好循環に関しては、今後の労使交渉の展開に加え、賃金上昇の物価への波及、特にコストに占める人件費の比率が高いサービスの価格がしっかり上がっていくかを注目点に上げた。

米経済に関しては、景気減速を回避しながらインフレ率を抑制する「ソフトランディングシナリオが実現する可能性は高まる」とする一方、今後の景気展開や政策運営次第で「インフレが再燃する逆方向のリスクも否定できない」とした。質疑では、トランプ次期政権の政策に関して「世界経済に影響の大きいアメリカの政策であり、大変注目してみている」とも語った。

オントラック

その後の会見では、12月会合での利上げの可能性を問われ、「その時点で適切な判断をする」と説明。円安の影響に関しては、その背後にある経済要因を含めて見通しやリスクへの影響を分析して「各会合で判断していく」と語った。

足元の日本経済は前進が見られているとし、実質金利が低水準にある中で、見通しに応じて緩和調整をしなければ「どこかでインフレ率が急に加速し、急速な金利の引き上げを迫られるという可能性もゼロではない」と指摘。利上げした7月会合以降の経済・物価は「オントラック(想定通り)」とし、時期が遅れて後手に回る「ビハインド・ザ・カーブに陥らないように適切に政策判断する」と述べた。

(植田総裁の記者会見での発言内容を追加し更新します)

--取材協力:船曳三郎、氏兼敬子.

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